なぜオスプレイを派遣しない?
どうしてオスプレイを派遣しないのか――。感じた疑問を筆者は21日、自衛隊幹部にぶつけてみた。
20年7月から配備が始まった陸上自衛隊の輸送機V22オスプレイは、固定翼と回転翼を併せ持ち、飛行速度と航続距離に優れ、何よりヘリコプター同様に垂直離着陸が可能だからだ。C2やC130輸送機に加えて、滑走路が使えないという厳しい状況も想定すれば、オスプレイも派遣するという選択肢があってもよかったのではないか。
だが、幹部から戻ってきた答えは「まさにその通りだが、オスプレイの部隊はまだ教育訓練の途上で、海外に派遣できる能力には達していない」だった。昨夏、千葉・木更津駐屯地に暫定配備中の陸自のオスプレイ2機が九州で転地訓練を実施し、陸自水陸機動団との協同訓練まで報道公開していたため、派遣は可能だと思い込んでいたのだった。
破綻国家への派遣に必要な練度とは
しかし考えてみれば、04年から始まったイラクでの輸送活動を前に、空自のC130輸送機部隊がミサイル攻撃などの脅威を想定して行った訓練は、過酷を極めた内容だった。航空機の排気やエンジンなどの熱源に突入してくる肩撃ち式などの対空ミサイルによるゲリラ攻撃を回避しなければならなかったからだ。
このため空自部隊は、米空軍からミサイル回避戦技の指導を受けながら、東京・硫黄島の滑走路上空で、ミサイルの射程外(約4キロメートル)の高度から機体を90度まで傾け、一気にらせん状に急降下して着陸したり、急旋回しながらフレアと呼ばれる防護装置の熱源(火炎弾)を撃ち出したりする訓練を繰り返した。
それだけではない。輸送機の搭乗員全員が在日米軍司令部(東京・横田)に集められ、C130が不時着した場合に備え、空自は米軍が使用する救難用の衛星無線機を調達し、緊急時に敵味方を識別する方法なども訓練した。
イラクが特別だったわけではない。内戦状態に陥った破綻国家のスーダンで活動しようとすれば、同じような練度が必要ということだ。
スーダンで成功した邦人退避作戦
今回のオペレーションについて、新聞報道等によれば、24日早朝(日本時間)、首都ハルツーム近郊に残されていた在留邦人約40人は、複数のルートに分かれ、陸路で約670キロメートル離れた紅海沿岸に位置するポートスーダンに向かった。
これは東京-青森間に相当する距離で、アラブ首長国連邦(UAE)や国連機関などが用意した複数のバスなどに分乗し、護送の車列に加わるなどしながら20時間以上かけて到着。ポートスーダンの空港で待機していたC2輸送機に乗り込み、25日午前1時28分(同)にジブチへの退避が完了したという。
同じように陸路で退避したフランス人やカタール外交団の車列が銃撃を受け、負傷者が発生する事態となっていただけに、無事に脱出できたことを心から喜びたい。と同時に、今後への課題も指摘しておきたい。