2024年5月4日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年5月19日

 ベン・アミ外相は、サウジとイランの関係回復は、中国の役割よりもサウジとイラン両国の事情が大きいと指摘しているが、これには同意できる。他方、イランが、経済、社会的な困難から関係回復を決意したというのはどうだろうか。イランの主な意図は、イランの核施設に対する空爆をより困難にすることだと想像される。イランの経済、社会的な困難がサウジとの関係改善で解消されるとは思われない。例えば、サウジがイランに投資するという報道があるが、米国の経済制裁が続く中でサウジがイランに投資できるとは思えない。

 また、ベン・アミ元外相は、サウジ側の関係回復の最大の理由がイランの核武装が迫っているとからだとしているが、これは、イランの核開発に関心が偏っているイスラエル的な見方であろう。サウジを事実上支配するムハンマド皇太子(MBS)は、「イランが核武装すれば、サウジも核武装する」と広言している。また、サウジ側は、核兵器開発に転用可能な核技術の移転に拘っていることから、仮にイランが核武装すれば、サウジも核武装しようとするのではないだろうか。

定まらぬ米中それぞれの立ち位置

 サウジがイランとの関係改善を望んだ本筋は、イエメン内戦から手を引くことであろう。 また、ベン・アミ元外相は、サウジの安全保障の究極の保証人は米国であると書いており、常識的にはそうなのだが、バイデン大統領を毛嫌いしているMBSがそう考えているのか、評者は疑問に思っている。現実には、サウジの安全保障を保証できるのは米国しかないが、最近のサウジの中国への傾斜振りを見ていると、中国に過度の期待をしている可能性がある。

 ベン・アミ元外相は、ネタニヤフ現政権の対イラン政策が硬直していると批判しているが、「ホロコーストを繰り返さない」というイスラエルの国是に従えば、イランの核開発を阻止する以外のオプションはあまり想像出来ない。

   
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