2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年4月6日

Kagenmi/Gettyimages

 3月15日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、中国がサウジアラビアとイランの関係修復を仲介したのは、ペルシャ湾地域での経済、貿易面のみならず政治、安全保障面でも影響力を増大しているからだとの見方があるが、その実効性は、サウジがイエメン内戦からイランが支援するイスラム教シーア派武装勢力フーシから追い打ちを受けずに手を引けるかに掛かっているという社説を掲載している。

 サウジとイランは、長年の敵同士だが、中国の仲介によって関係を正常化し、大使館を再開することに合意した。中東の緊張緩和は歓迎されるが、この合意は、中国が米国を中心とした秩序に挑戦していることを印象づけた。

 5カ月前、米政府関係者は、イランがサウジを攻撃する差し迫った危険があると警告したばかりであり、この突然の関係修復は多くの人々を驚かせた。中国の外交面での画期的な成果は、この石油が豊かな地域で中国の影響力が高まっていることを浮き彫りにした。伝統的にペルシャ湾地域のアラブ産油国は、米国を主要な安全保障や経済でのパートナーとしてきたが、この合意は、米国のこの地域での地位が低下しつつあることの兆候と考えられる。

 そしてこの合意は、米サウジ関係が緊張し、最早、米国が信頼に足るパートナーではないという見方が高まった後に行われた。サウジのムハンマド皇太子は、米サウジ関係と中国や他国との関係のバランスを取るという、より独立した外交を追求している。米国のペルシャ湾地域の原油への依存が10年間減少している一方、中国はサウジ産原油の最大の購入国、最大の貿易相手となっている。

 そして中国は、米国のようにはサウジの悲惨な人道問題に圧力を掛けない。また中国は、米国の制裁下にあるイランにとって最大の原油引き取り手であり、先月、イラン大統領を公式招待した。サウジ政府関係者は、中国はイランについて当てになると読んだ。

 長年、中国は、ペルシャ湾地域に対しては、経済、貿易関係に集中してきたが、最近、地政学的な野心を高めている。

 問題は、このような中国の政策が持続的な成果をもたらすかで、重要な試金石はイエメン内戦である。サウジは、内戦への介入から手を引いて自国の開発や外国からの投資を阻害しているフーシによるドローンやミサイルによる攻撃を止めさせたいと望んでいる。サウジとイランで「冷たい平和」以上は期待出来ないであろうが、とりあえず今回の合意は、中東地域の危険な状況を低減させることになった。

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 今回の中国の仲介によるサウジとイランの関係修復は、一般にペルシャ湾地域への米国の影響力の退潮と、それにより生じた「力の空白」を中国が埋めようとしていると受け取られている。

 しかし、今回の関係修復は、もっぱらサウジとイランの思惑によるものだ。この社説も指摘しているが、イエメン内戦に軍事介入しているサウジは敵対するイエメンのフーシのサウジ本土に対するドローン、ミサイル攻撃に音を上げてイエメンから手を引きたいが、フーシからのサウジ本土への攻撃停止の確証を得る必要があり、そのためフーシのみならず、その後ろ盾のイランとも話を付ける必要があった。

 既に、サウジとフーシが3月末に始まるラマダン(断食月)中に手打ちをするという噂があるが、今回のサウジとイランの関係修復は、これとつじつまが合う。


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