2024年4月20日(土)

教養としての中東情勢

2023年3月7日

 イランが核兵器級の濃縮ウランを製造していたことについて「12日間で核爆弾1個を製造できる」(米国防次官)などとバイデン政権は懸念を高めている。イランは「偶発的な産物」と説明しているが、宿敵イスラエルの疑念は深まる一方だ。米高官からはイランへの軍事攻撃に〝青信号〟を与えるような発言も出ており、ウクライナ戦争の陰でもう一つの危機が動き出した。

核開発をめぐり、IAEAのグロッシ事務局長が急きょイランを訪問し、ライシ大統領(右)と会談した(Iran's President Website/WANA /ロイター/アフロ)

米国の姿勢に変化

 イラン核合意を再建し、イランを合意に復帰させることを公約してきたバイデン政権は昨年夏ごろまではまだ、再建交渉に望みをつないでいた。欧州連合(EU)などとイランによる再建交渉がほぼ完了し、間接的に交渉に参加していた米国も交渉内容を了承。残っているのはイランの最高指導者ハメネイ師の承認のみ、という状況だった。

 だが、ハメネイ師から回答が来ることはなかった。ハメネイ師は革命防衛隊など国内の保守派が核合意や再建交渉に反対であること、米国が「二度と合意から離脱しない保証」を拒否したことなどを考慮したものと見られている。このイラン側の事実上の交渉拒否に対し、バイデン政権の姿勢が変わった。

 国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は2月、再建交渉が暗礁に乗り上げていることを認める一方、「交渉には集中していない」と述べ、政権がもはや交渉を重視していないことを示唆した。米紙は複数の米当局者の発言として、バイデン政権が交渉戦略に依存せず「どうやって核計画を阻止できるかに傾注している」と報じている。

 ワシントン・ポスト紙によると、バイデン政権の姿勢の変化を顕著に表したのがナイズ駐イスラエル米大使の発言だ。大使は「イスラエルはイランに対処するため必要なことは何でも行うべきだし、米国はそれを援護する」と述べ、イスラエルのイラン攻撃を容認したものと波紋を呼んだ。ブリンケン国務長官は攻撃に〝青信号〟を与えたのかとの質問に「外交的解決を信じる」と述べたにとどまった。


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