2024年7月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年7月14日

 上記社説が指摘している点で興味深いのは、技術的な点を文書化しない非公式の合意では、イラン側が、IAEAによる核施設へのモニタリングの再開、査察などの約束を守らないのではないかという指摘である。また、IAEA絡みで気になるのは一連の報道で「未申告の核物質」の問題の扱いについて一切言及が無い事である。この問題は、イラン側が一貫して強く調査を拒否しているが、核爆弾の起爆装置開発に関連していると言われており、放置できないはずである。

 ウィーンでの間接交渉において捗々しい進展がない中、来年、自分の再選を賭けた大統領選挙を控えるバイデン大統領が、ロシアのウクライナ侵攻、中国の台頭への対応もあり、取り敢えずイラン核開発問題を先送りにしたいと思うのは理解できるが、問題の先送りは、この問題の一層の深刻化を招くだけであろう。しかも、合意の内容を議会対策で文書化しない事は、イラン側が合意をなし崩しにしてしまう恐れが高い。

ただし交渉が成功するかは不透明

 しかし、この非公式な合意が成立するかどうかは、まだ分からない。イラン人は、大変賢い民族だが、時々、自信過剰になって大魚を逃す傾向がある。今回の場合、イラン側は事実上の制裁解除となるような条件に固執している可能性がある。

 米ニューヨーク・タイムズ紙の記事によれば、イラン産原油を積んだタンカーの拿捕を行わないことという条件が交渉されているというが、これは事実上の制裁解除に他ならない。6月21日にイラン側の交渉責任者が、欧州連合(EU)の関係者と会談を行った由だが、これまでウィーンでEU、ロシア、中国を代理人として間接交渉を行っていたのを袖にしてオマーンを代理人に切り替えたのにも関わらず、今更、EUと協議したというのは、オマーンでの交渉が暗礁に乗り上げている可能性がある。

 この合意には意外にもイスラエルが強く反発していない。イスラエルがイランの核施設を空爆出来ないのはイランを長距離空爆するために必要な空中給油機が足りないからだと思われるが、2年以内に米国に発注した空中給油機が届くので、そうなればイスラエルはイランの核施設を空爆することが可能になる。そう考えるとイスラエルのために米国が時間稼ぎをしているという見方も出来る。

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