しかし、中国は投資枠の増大と国営企業による投資をFIRBの審査対象からはずすことと共に、特定分野の中国人経営者やスタッフへのビザ発給も求めてくる可能性がある。
こうしたビザや国営企業に関する規制の変更は、豪州政府にとり、保守党の重鎮であるColin Barnett西オーストラリア州首相も支持している民間投資枠の拡大の推進よりも、政治的にはるかに微妙で難しいと思われる、と述べています。
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豪州は、ギラード前首相からラッド新首相に交代するや、中国とのFTAは将来の豪経済の根幹であるとして、前政権の慎重姿勢から、一転して、早期妥結を優先する政策に切り替えました。
豪州は「経済連携先進国」です。APECは1989年1月にホーク首相(当時)が提唱したものであり、FTAについても古くは1965年にニュージーランドと締結したNZAFTA、2004年に米国と基本合意に達したAUSFTA、2012年にはASEAN全10カ国とのFTAが完成しています。
今や、豪州にとって中国は最大の貿易相手国であり、中国とのモノとサービスの貿易額は、2012年度に1280億豪ドル(約11兆7300億円)に達しています。それが、最近の中国経済の落ち込みから商品市況が低迷し、西豪州の資源開発に陰りが見えてきました。そこで、中国の巨大な中間層向けに、農産物など資源以外のモノやサービスの輸出を拡大したい、というのがラッド政権の意向です。また、中国とFTAを結んだニュージーランド(2008年4月に先進諸国では初めて中国とFTAを調印し、関税を段階的に撤廃。サービス分野でも成果が拡大中)などと比べた出遅れ感も、今回の方針決定の背景にあると思われます。
一方、中国側の事情としては、ASEANとのFTAを推進してみたものの、中国以外の周辺国が進めるTPPには出遅れ、というよりも事実上参加できる条件が満たされる見通しは全くありません。それを、豪州で埋め合わせようという意図なのでしょう。
なお、総選挙で保守系野党が政権をとれば、中国が求める国営企業への規制緩和や、中国人へのビザ発給に対して、強硬姿勢に転じるかもしれず、必ずしも、ラッドの豪中FTA推進路線がそのまま継続されるとは限りません。
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