ニジェールではクーデター支持派の住民がロシア国旗を打ち振る画像がニュースで何度も放映され、この地域へのロシアの影響力拡大を認識させた。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報官は、クーデターの背後にロシアが関与した兆候は見られないとの見解を述べたが、疑問である。マリにおいてもワグネルによるSNSなどによる事前の情報操作により反仏感情を高めたことが仏軍の追放につながったとされる。ニジェールでは、既にこのクーデター以前にも、フランスがニジェールの富を搾取しているとか仏軍はイスラム過激派対策に役に立たないなど、やや不自然なまでに反仏的国民感情が煽られており、マリから撤退したフランス軍の受け入れを決めたバズム大統領に対し、4月には市民団体を名乗るグループが物価の上昇や大統領の統治能力の欠如と合わせて反政府抗議活動を繰り広げていた状況があった。
西アフリカ地域15カ国で構成する地域機関の西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は、緊急首脳会議を開き、一週間以内にバズム大統領の権力が回復されなければ武力の行使を含む必要な措置をとると声明した。これに対し、クーデター政権は応ずる構えはなく、また、マリとブルキナファソの共同声明ではニジェールへの軍事介入は両国に対する宣戦布告とみなされると警告した。クーデター勢力とマリ、ブルキナファソの間には連携があるようだ。また、ワグネルはクーデターを歓迎しているという。
ひとまず様子見の米国
米国としては、民主主義を守る立場から譲れないところであるが、矛先はフランスに向いていること、空軍基地の維持の問題もあり、援助の停止や経済制裁を行えば、ますますニジェールをロシア側に追いやるだけであるので、前面に出ずにECOWASの圧力にクーデター勢力がどう反応するのかをとりあえず見守っているのであろう。
ニジェール軍内部の動向は分からないが、クーデター勢力がバズム大統領の復権に応じない可能性は高く、他方、ECOWASが全面的に軍事介入するかは疑問である。米国が、単に軍事援助と政府開発援助(ODA)を停止し、更には経済制裁を行えば、軍事政権はロシアに頼り、ロシアの影響力が増すという悪循環が繰り返される可能性が高い。
米国としては、ECOWASの努力を支援するとともに、単に没交渉ではなく軍事政権と何らかの形で対話を続け近い将来の民政移行をコミットさせ、そのプロセスをECOWASと共に監視しつつ、人道援助などは継続するといった選択も考えなければならないのではないか。