2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年8月21日

 米ワシントン・ポスト紙の7月29日付け社説‘Why the Niger coup matters — and what the U.S. should do about it’は、ニジェールのクーデターを認めてはならず、大統領が復権しなければ、欧米は対イスラム過激派と戦うための軍事支援や開発援助などを停止すべきである、と主張している。要旨は次の通り。

タチアニ将軍の支持者が呼びかけた行進に参加する(写真:picture alliance/アフロ)

 ニジェールのバズム大統領は現在、大統領官邸に監禁されており、その警護隊長であったチアニ将軍が、自ら新たな国家元首であると宣言した。この非道な権力奪取を許すことはできず、ブリンケン国務長官がバズムへの揺るぎない支持を表明し、この違法な政権奪取を非難したことは正しい。

 米国は、無人機基地を含む約1100人の部隊をニジェールに駐留させており、同国軍がイスラム武装勢力と戦うのを支援している。米国はまた、非軍事的な対外援助として数億ドルを提供している。クーデターの首謀者は、バズムが大統領の座に返り咲かない限り、米国の支援が打ち切られることを知る必要がある。

 ニジェールはウラン資源に恵まれているが、世界で最も貧しい国の1つだ。同国は、他の周辺国と同様に軍による政治介入の歴史がある。近隣のマリやブルキナファソでも最近、クーデターによって民主的な政権が倒された。その表向きの理由は、ニジェールのケースと同様で、文民指導者がイスラム主義反乱分子を厳しく取り締まることができず、住民に安全をもたらすことができないためとされる。

 ニジェール人の多くがこのクーデターを支持しているとの報道は憂慮すべきだ。さらに懸念されるのは、一部のクーデター支持派がロシアの国旗を掲げ、マリで活動しているワグネルの支援を求めているという報道だ。ワグネルはマリでフランス軍に取って代わり、非戦闘員の虐殺を含む人権侵害で非難されており、ニジェールは同じ運命を避けるべきである。

 政権を掌握したと主張する将軍たちが直ちに兵舎に引き揚げ、民主的に選ばれたバズムが全権を取り戻さなければ、米国とニジェールのパートナーシップやこの国にとってのあらゆる利益が今や危機に瀕することになる。欧州連合(EU)はすでにニジェールへの資金援助と安全保障援助を停止しており、ブリンケンは米国も同様の措置を取ると警告している。

 米国は、民主的指導者を武力で追放することはできないという原則を守るべきである。バズムが完全な支配権を取り戻すまでは、ニジェールとの関係はこれまで通りという訳にはいかない。

*   *   *

 ニジェールは、米国にとり、サヘル地域でのイスラム過激派と戦うためのいわば最後の砦だ。フランスにとっては、加えて原子力発電用のウランの供給地であり対アフリカ政策の戦略上の重要拠点ともいうべき国だ。今回のクーデターは、両国のアフリカ政策にとって危機的な状況である。

 マリやブルキナファソのように、米軍、仏軍が撤退した後にワグネルが入り込み影響力を拡大することになれば、イスラム過激派対策への不安が生じる。また、ロシアがこの地域を牛耳ることになるので、フランスやEU諸国へのウランの供給に支障が出る恐れもある。


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