2024年12月8日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年4月12日

 国連緊急特別総会における3月24日のロシア非難決議は、アフリカ各国とロシアとの距離感や各政権の民主主義のレベルを示すリトマス試験紙のような役割を果たした。また、これは近年のロシアのアフリカ大陸への軍事的、政治的影響力拡大の成果を示すものでもあった。

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 アフリカ諸国54カ国の内、ロシア非難決議に賛成したのがエジプト、チュニジア、ガーナ、ケニア、ニジェール、ナイジェリア、ザンビアなど28カ国であった。棄権した17カ国には、南アフリカ、アルジェリア、セネガル、アンゴラ、中央アフリカ、マリ、モザンビーク、スーダン、ジンバブエ等が含まれる。反対はエリトリア1カ国で、8カ国は投票に参加しなかった。

 アフリカ諸国の約半数がロシア非難に賛成しないことついて、フィナンシャル・タイムズ紙のデビット・ピリングによる3月25日付け論説‘This is no time for neutrality in Africa on Ukraine’は、
① アフリカの伝統的な非同盟主義
② 対ロシア制裁による経済的、社会的影響への懸念
③ 南部アフリカ諸国については冷戦期の黒人解放運動に対するソ連の支援への恩義
④ 欧米の過去の植民地主義や欧米中心の経済的世界構造に対する反発等
の要素を上げるが、特に懸念されるのは、ロシアによる近年の軍事的支援を通じたアフリカにおける影響力拡大政策がある、と指摘している。

 プーチンのアフリカに対する関心の背景は二つある。第一に、世界的な影響力を回復したいとのソ連時代への郷愁があり、具体的には、軍事的支援と引き換えに資源や国連の場での協力を確保するという取引である。第二は、地域の不安定化に乗じてアフリカから欧州の影響力を排除し難民の流出などにより西ヨーロッパを包囲する地政学的な戦略である。この二つは、全体として一つの戦略を形成していると考えるべきであろう。

 冷戦期には、ソ連は、アフリカ南部の黒人解放運動を強力に支援し、また、各国に成立した社会主義政権を政治的、経済的に支援したが、ソ連の崩壊により、これらの関係はいったん途絶えた。しかし、2010年代に入り、プーチンがロシアの復権といった野心を高めるのと並行してアフリカへの影響力拡大に乗り出し、経済援助や投資では欧米や中国に対抗できないため、大統領警護等の治安面や反政府活動の取り締まり、武器供与や軍事訓練等への協力といった手法に頼ることとなった。これはアフリカの強権政治家や軍事政権のニーズにも応えるものであった。

 18年時点ですでに19カ国と何らかの軍事協定を結んでおり、特に、民間軍事会社ワグナーを通じた活動が中央アフリカ、チャド、マリなど旧フランス領の国々を含めて注目されて来た。この種の民間軍事会社については、何らかの国際的規制や透明性の向上が必要であろう。

 そして、19年には、ロシアは、アフリカ諸国の首脳を一堂に集めた第1回ロシア・アフリカ首脳会議をソチで開催し経済関係を中心とする「表」の関係における影響力拡大も誇示した。


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