英国人が悪役として登場する映画で、これほどのヒット作があっただろうか。インド映画「RRR」(S・S・ラージャマウリ監督、インド、2022年)のことだ。インドだけでなく、欧米で大ヒットを記録し、日本では公開から8カ月がすぎたいまも上映が続いている。
反・大英帝国というより、強い男たちが猛獣とともに闘い、踊り、歌う3時間におよぶ大活劇、という見方もあるだろう。だが、旧英領、南アフリカを拠点に旧植民地をめぐってきた筆者の目には、大英帝国人のずる賢さ、残忍さ、差別意識を露骨に突いた作品という印象が残った。
描かれる植民地での残酷な対応
舞台は英植民地下のインド。森の民を訪ねた英国総督の妻が、人の手に絵を上手に描く少女が気に入り、母親に小銭を投げ渡し連れ去る。
追いすがる母に衛兵が銃を向けると、上官がこんなふうに言う。「その弾1発をつくるのに大英帝国がどれほどの金をかけているかわかるか。そんな者に弾を使うのは無駄だ」と。言われた衛兵はそばにあった太い木で母親に一撃を食らわせる。
こんな事実があったのかどうか疑わしいが、筆者にはこの場面ですぐさまベルギー統治下にあったアフリカ中部、コンゴ民主共和国(旧ザイール)が浮かんだ。
遅れてきた帝国主義者、ベルギー国王のレオポルド2世は1885年、未知の領域だったこの地を「コンゴ自由国」として私有地にした。国王はゴム栽培で財産を築いたが、アフリカ開拓の先人だった英国にその横暴ぶりを批判され、1908年にやむなくベルギー統治領とした。以後、ベルギーは現地人に銅、ウラン鉱山の開発、ゴム、コーヒー栽培を強制し、65年までに推定20万人を死なせた。
ベルギーの入植者は沿岸部の民族を武装させ奥地へと分け入った。現地人に銃弾を補給する際、敵を撃ち殺した証拠として現地人の手を持ち帰るよう指示した。それ以後、コンゴに手を切り落とす悪習が広がった。
1990年代の旧英領シエラレオネの内戦で、敵の手を切断する拷問が広がったが、その起源はコンゴだった。つまり、植民地での銃弾一発は現地人の命に匹敵するくらい貴重なものだったということだ。