2024年5月16日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年8月25日

 たとえば、こんなコメントだ。

 「(西安にある世界的に有名な観光地の)兵馬俑に行こうと思ってサイトを見たが、私たちが旅行したい日のチケットはすでに完売だった。これではわざわざ西安まで行く意味がない。フライトもホテルも取るのが大変なのに、同時進行で家族分の入場券も取らなければならないなんて、旅行に行く前にもうヘトヘトになる……」

混雑によるトラブルも

 筆者も兵馬俑の公式サイトを見てみたが、1日の収容人数の上限はなんと6万5000人だった。入場券は1人120元(約2400円)。安くはないが、それでも予約希望者があまりにも多く殺到しているため、毎日すぐに完売してしまうようだ。

 ネット上には「やっとの思いで入場券を入手して、兵馬俑に入ることができたが、まるで満員電車みたいに混んでいて、肝心の兵馬俑がよく見えなかった。兵馬俑を見るのではなく、大量の人間を見に行ったようなものだ」という別の人の不満も書かれていた。

 入場券をネットで購入するのも争奪戦だが、たとえ運よく入場券を入手できても、館内が混雑しているため、炎天下で数時間も入場待ちということもよくあり、辟易とする人が多いようだ。

 そうしたことで不満が溜まっているせいか、各地でトラブルも頻発している。たとえば、7月、江西省では観光スポットへの入場を待つ人々同士がささいなことで口論となり、フェンスを持ち上げて相手を殴る蹴るといった事件が起きた。8月、安徽省の有名観光地、黄山では、登山客同士が杖で殴り合いをしたことがSNSに大きく取り上げられた。

 また、あまりの混雑ぶりに、宿泊施設を予約できないという事態も起きている。夏休みではなく、ゴールデンウィーク中のことだが、前述の黄山では、宿泊施設を予約できなかった約800人が公衆トイレ内の床に野宿したことが国内で大きく報道された。

 宿泊費については「通常の2倍以上に跳ね上がっていて、明らかにぼっている」「高額すぎる」などの悲鳴も多い。SNSには、6月に高考(大学入学統一試験)を終えたばかりの高校3年の男子が父母と3人で雲南省を旅行する計画を立てていたが、有名観光地の麗江や大理のホテルは3~4つ星ホテルでも1泊1000元(約2万円)以上に高騰。3人で2部屋予約し、4泊したら父親の1カ月分の給料が消えてしまった、と書かれていた。ほかにも「スーパーなら3元の水が、観光地では6元や8元に設定されている。料理も観光地価格でまずい」と酷評されている。

ゼロコロナのしわ寄せでサービスは劣化

 高額なだけでなく、人手不足でサービスが悪化していることも問題となっている。日本のオーバーツーリズム問題とも共通しているが、中国でもコロナ禍で観光業やサービス業は大打撃を受けた。ゼロコロナ政策で人の移動を厳しく制限した結果、どの観光地も閑古鳥が鳴くようになり、人員整理が行われたのだ。

 今年1月にゼロコロナ政策が終了して以降、春節頃から観光地に少しずつ旅行客が戻ってくるようになったが、サービス業に従事する人はまだ完全には戻っていない。そうしたことから、旅行客の間に「こんなに値段が高いのに、こんなにサービスも悪いのか」という不満が渦巻いている。その一方、一部の有名ガイドには予約が集中しており、北京のある観光ガイドは日当を2000元(約4万円)以上に設定しても、予約が絶えず、荒稼ぎしているという。

 では、なぜ、この夏休み時期、各観光地が飽和状態になるほど、各地に旅行客が押し寄せているのだろうか。


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