今年の国慶節、海外旅行先で日本が一番人気と報道されたとき、日本の一部のSNSでは「処理水のことであんなに文句を言っていたくせに(なぜ日本旅行に来るのか?)」といった疑問の声が上がっていたが、そこには、中国があまりにも広大で、あまりにも多様な人々が住んでいることが関係している。
処理水の問題で日本に嫌がらせ電話を掛けた人々は、比較的内陸部の田舎の若者だった。彼らは自分の境遇に不満があって、ただストレスを発散したかったり、嫌がらせ電話を掛ける動画をSNSに投稿してお金を稼ぎたいだけだったり、といったレベルの人々だ。中国全体から見れば、多数とは言えないが、日本の飲食店などに直接電話を掛けるという行為に出たため、日本人は、まるで中国中の人々が日本に電話を掛けているような気持ちになった。
一方、日本へ旅行に行けるような人々は、そうした若者とは異なる中間層か、それ以上の富裕層だ。日本旅行へ行くには、団体旅行、個人旅行ともにビザが必要だが、彼らは少なくとも年収500万円以上はある人々。一口に同じ「中国人」といっても全然階層が違う人たちだ。彼らは中国国内にいても、知り合い同士ではなく、住んでいる場所も、学歴も、職業も全く異なるが、日本人には、同じ「中国人」に見えてしまう。
細分化する中国人需要をどう見るか
そのため、処理水問題に文句を言っているのに、なぜそんなに日本旅行に来たいのかと日本人は理解に苦しむという現象が起きる。これは、日々変化する中国人の実相に目を向けず、「爆買いは戻るか」という日本目線の報道をひたすら続けるメディアにも、責任の一端があるのではないか。
中国人の日本観光の需要は今後も続く。だが、ここまで書いてきたように、その中身はさらに各階層によって多様化、細分化していくだろう。そのとき、現実と報道の乖離はより大きくなってしまうのではないかと感じている。