今年は4年ぶりに本格的な海外旅行ができるようになり、再び注目を集めたが、報道は「ふり出し」に戻ってしまった。つまり、「爆買いは復活するか」という点に終始したことだ。
なぜ、23年のいま、15年の「爆買い時代」に中国人が逆戻りするのか理解できないが、想像するに、多くの日本人の目には15年の「爆買いブーム」で時計の針が止まってしまっており、当時の印象があまりにも強すぎるため、認識を変えることができないからではないだろうか。
変化する中国社会を見ていない日本
中国では、ゼロコロナの行動制限が厳しくない時期、国内旅行が流行した。海外旅行に行けない分、国内の観光施設が充実し、アクティビティも増えた。旅行の目的が多様化し、アウトドアや文化体験などをする人も急増した。19年ごろ、日本など海外で経験したコト消費を国内に持ち込んで実践し、コロナ禍の4年間で、それが進化するという傾向が見られた。
しかし、日本では中国国内の旅行トレンドの変化に興味を持つ人は少ないことから、中国国内の観光事情については、あまり報道されなかった。そのため、この4年間、中国人の旅行の成熟化も日本人同様に止まったのだろうと考えた。それどころか、メディアは逆戻りしてしまい、「爆買いは復活するか」という点に注目してしまったのだろうと筆者は考えている。
日本社会がコロナ禍を経てもあまり変わらない、あるいは、実際にはじわじわと(悪いほうへと)変わっていても、そのスピードが比較的緩やかであるためにあまり気がつかないからか、中国でも日本と同じように時間が流れているのだろうと誤解しているのではないかと感じている。
その結果、このようなステレオタイプな報道が増えてしまい、読者や視聴者もそれにつられて「爆買い」に期待したり、「爆買い」客は日本に来ないでほしいと気をもんだりするのだが、筆者が考える限り、当の中国人自身は、そうした日本の報道とはまったく異なるステージに立っている。
14億人いる中国人はそれぞれ違う
記事の前半でも少し紹介したが、処理水の問題に関していえば、処理水のことを気にする人はそもそも日本にやって来ないし、処理水のことを気にしない人や、多角的な情報を入手できるレベルの人は、自分たちなりに判断し、日本にやって来るということだ。それを事前に何割の人は気にするか、というふうに予測することはできない。
なぜなら、中国には14億人もの人々が住んでいて、それぞれ考え方や情報量に大きな格差があるが、それは目に見えにくいからだ。そして何よりも、日常生活において、そこまで日本のことを気にしていないからである。