価格的には高級商材よりも、むしろアジ・サバといった比較的安価な水産物価格が、底上げされて全体の水産物価格を押し上げる傾向があるでしょう。これは1990年代にトン当たり400ドル程度だったナイジェリアなどの西アフリカ向けの冷凍アジの価格が、2000年代に入るとその4倍程度に増加していることでもわかります。安い魚へのたんぱく源としての需要は顕著です。
その安い魚を求める勢いは、日本の小サバにも及びました。それまでエサにしかならなかった小サバが食用向けに西アフリカや東南アジア向けに開始され、魚価も上がりました。しかしながら、その上がった価格でも、北欧をはじめとする北大西洋産のサバより、はるかに安く販売しているのが現実です。
22年のサバの平均輸出価格は日本が12.5万トン・キロ150円、ノルウェーが34万トン・キロ250円と、約7割もノルウェー産が高く輸出されています。これは主にサイズと脂のあるなしによる品質評価の違いによります。乱獲を助長してしまい、資源管理が機能していない獲り切れない枠の中で、貴重な水産資源が減って行くことになります。
なお、世界は水産物のサステナビリティに大きく舵を切っています。サステナビリティが実現されていない水産物の輸出は、相手国の流通業界から排除されるなどのリスクがあるので、注意が必要です。
本当に怖いことは何か?
水産物の輸入を停止されると、輸出産業に短期的には悪影響が出てしまいます。ただし、水産資源管理が科学的根拠に基づいて行われていれば、旺盛な需要増加を背景にマーケットは世界中に広がって行くので、相場の上げ下げはあるにせよ、販売自体は何とかなっていきます。
誰も言い出しませんが、相手国が輸入を停止するよりも、もっと怖いことがあります。それはこれまで輸入していた国が、輸出を制限してくることです。ロシアのウクライナ侵攻により、エネルギーをロシアに頼って来た欧州諸国は、エネルギー供給を止められた、もしくは大きく制限された場合のリスクを背負っているのは周知のとおりです。
仮に、日本向けの輸出を停止した場合は、どうなってしまうのでしょうか? その場合、国民への食料供給に影響が出てしまいます。
もともとわが国にはサバをはじめ、本来輸入に頼らなくてもよいだけの十分な水産物が多数存在していました。それが資源管理に科学的根拠を欠くことで、魚がどんどん消えて輸入に依存するようになり、現在に至っています。
世界全体では、人口増加に伴い、水産物需要の増加が供給を上回ることは確実な状況です。魚を食べ続けるためには輸入に頼らなくてもよいように、資源を回復し、剰余分を輸出に回す体制にすることがとても重要なのです。
わが国には、石油も天然ガスも国民を支えるだけの資源は国内になく、輸入に頼らざるを得ません。しかし、水産資源は手遅れになる前であれば資源が回復している例が、漁獲枠を基にした数量管理により、ノルウェーのニシン、ニュージーランドのホキ、チリのアジなど、世界のあちらこちらに存在しています。
今回の中国の水産物の輸入停止は、輸出先が偏っていたことへの見直しと、輸入制限された場合に、いかに日本の水産物が重要なのか、そのための資源管理が必要であることを真摯に検討するための機会なのかも知れません。
本当に怖いことは、日本に輸入される水産物が規制によって減らされた場合、肝心の国産水産物が、資源管理が機能していないためになくなってしまっている状況ではないでしょうか? その対策は、資源管理により水産資源の回復に他なりません。