8月24日、東京電力は福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出を開始した。今回は約7800トンの処理水を海水で薄めて、原発の沖合約1キロメートルの地点で放出し、作業は9月11日に終了した。
放出後、原発から3キロメートル以内の10地点で採取した海水のトリチウム濃度は通常の海水と変わりがないことが確認され、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長もまた、海洋放出が安全基準を満たしているとの見解を示した。次回の放出は9月末の予定であり、今年度中に4回に分けて約3万トンを流す計画という。
最も重要なのは風評被害対策
処理水の海洋放出には漁業者からの強い反対がある。その理由はただ一つ、風評被害だ。原発事故後、福島が経験した風評、デマ、差別の地獄のような実態と、これを引き起こしたのが利益のために「まがいものの正しさ」を撒き散らすメディア、野党、活動家であり、これに積極的に対応しようとしない行政があることを、福島在住ジャーナリストの林智裕氏が著書『「正しさ」の商人 情報災害を広める風評加害者は誰か』(徳間書店)で厳しく批判している 。
事故後の風評が一段落した現在、今度は処理水を危険であるかのように主張する「まがいものの正しさ」の宣伝が再び活発化して、風評被害が再現する恐れがあるのだ。
風評を避けるために国は検討を行い、2020年1月に「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書」を発表した。そこでは農林水産物の安全性に対する消費者の信頼を得るために十分な検査体制を構築し、検査結果をわかりやすく伝えること、そして風評被害防止・抑制・補てんのための経済対策を行うことなどの対策を実施し、透明性のある情報発信や双方向のコミュニケーションに長期的に取り組むとしている。
海洋放出が始まって約1カ月、過半数の国民が放出に賛成し、大きな風評被害の報道はない。ところが予想外のところで被害が出た。それが中国による日本産水産物の輸入禁止である。