中国の非科学的主張
中国外交部の趙立堅報道官(当時)は3年前の21年4月14日、「中国の原発も汚染水を放出している」という日本の記者の質問に対して、「原発事故が発生した汚染水は正常な稼働時の原発の汚染水とは全く別物」と答えた。何が違うのかについては、中国の国営テレビ局中国中央電視台が8月28日付の記事で次のように述べている 。
「日本メディアは、中国の原子力発電所から放出されるトリチウム濃度は放射能汚染水のトリチウム量を上回ると報じているが、世界中の多くの科学者は、放射能汚染水には64種類以上もの放射性物質が含まれており、その7割以上が基準値を超え、多核種除去設備(ALPS)によってそれらを完全に除去するのは難しいとの共通認識を持っている」
同じ日に駐日中国大使館はホームページで同じ主張を繰り返すとともに、次のように述べている。「『基準を満たす』イコールない、稀釈イコール除去ではなく、総量が変わるわけではない。日本がどう弁明しようとも、大量の有害な核種が海に放出され、海洋の環境と人類の健康に予測できない危害をもたらす事実は変えられない」
もちろんこれらは全くのでたらめだ。ALPSがトリチウム以外の核種を基準値以下まで減らしていることは測定値が明確に示している。また海水中には多量の自然の放射性物質が含まれ、世界の原発から海洋放出されるトリチウムその他の核種はこれに比べると極めて微量であり、しかもトリチウムは半減期12、3年で減ってゆくので、海水中の総量を有意に増やすことはない。見え透いた嘘は中国の得意芸だが、驚いたことにこの嘘を国内に広げる人たちがいた。
中国の嘘を広げる人たち
9月3日放送のサンデーモーニングで、コメンテーターの松原耕二氏は「普通の原発が流すものはトリチウムだけが入っている。今の処理水はですね、燃料デブリに直接当たっているので、トリチウムだけじゃなくてセシウムとかストロンチウムとかいろんな放射性物質が入っているわけです」と説明した。さらに日本政府は「(他の放射性物質)に意識が行かないように『トリチウム、トリチウム』という風に持って行くようにも見えるわけですね」とも述べた。
前半は中国の主張と全く同じ嘘であり、後半は悪質な陰謀論だ。そしてこの発言はネット住民から厳しく批判された。
次は日本共産党の志位和夫委員長だ。海洋放出に先立つ8月22日に発表した『汚染水の海洋放出を中止せよ』と題する文書で、「核燃料が溶け落ちたデブリに接触して汚染された水は、アルプスで処理しても、放射性物質のトリチウムは除去できず、『規制基準以下』とはいえセシウム、ストロンチウムなどトリチウム以外の放射性物質も含まれていることを、政府も認めており、関係者の同意が得られないのは当然である」と述べている 。
「規制基準以下」と書くことで嘘をつくことは避けているが、健康にも環境にも何の問題もない微量の放射性物質の存在を「汚染水」という言い方であえて強調することは風評被害を呼び起こすことを意図しているとしか見えない。
この方針に従ったと思われるのが同党の元広島県福山市議の村井あけみ氏だ。「魚や貝をたくさん食べて、明るく幸せになって、中国に勝ちましょう」というジャーナリストの櫻井よしこ氏の呼びかけに対して、「どうぞ、もっとしっかり汚染魚を食べて、10年後の健康状態をお知らせください」と投稿したのだ。これは直ちに厳しい批判を浴びて削除と謝罪に追い込まれ、党は元市議を次期衆院選の候補から外すと発表した。