2023年12月8日(金)

日本の漁業 こうすれば復活できる

2023年10月11日

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片野 歩 (かたの・あゆむ)

水産会社社員

東京生まれ。早稲田大学卒。2015年水産物の持続可能性(サスティナビリティー)を議論する国際会議シーフードサミットで日本人初の最優秀賞を政策提言(Advocacy)部門で受賞。1990年より、最前線で北欧を主体とした水産物の買付業務に携わる。特に世界第2位の輸出国として成長を続けているノルウェーには、20年以上、毎年訪問を続け、日本の水産業との違いを目の当たりにしてきた。著書に『日本の水産資源管理』(慶應義塾大学出版会) 『日本の漁業が崩壊する本当の理由』『魚はどこに消えた?』(ともにウェッジ)、『日本の水産業は復活できる!』(日本経済新聞出版社)、「ノルウェーの水産資源管理改革」(八田達夫・髙田眞著、『日本の農林水産業』<日本経済新聞出版社>所収)。

 東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水を薄めて海に放出を始めたことに対して、中国が日本産水産物の輸入を8月末から停止しています。そして1カ月が経過しました。

 2022年の実績で467億円と、中国向け水産物で品目別に最も多かったホタテの輸出が滞る報道をご覧になった方は少なくないと思います。中国向けのホタテの金額は、全水産物3873億円の12%を占めていました。

かつてノルウェーにとって隣国ロシアは単一国家では最大の顧客であった(筆者提供)

 近年、主要輸出先が水産物の輸入を停止されたよく似たケースがあります。最大の単一国家としての顧客であったロシアから輸入停止された、世界第2位の水産物輸出国であるノルウェーです。

ノルウェーの水産物輸出はどうなったか?

 2014年3月にウクライナ領のクリミア半島が突如独立を宣言し、ロシアに併合されました。西側諸国はロシアに対する国際的な制裁開始。一方でロシア側も対抗措置を取り、その一つが欧米からの水産物輸入停止でした。

 14年8月、ロシアはノルウェーからの水産物輸入を停止。ノルウェーにとって隣国ロシアは、単一国家として水産物の最大の輸出先で、数量でシェアが約13%ありました。

 当時筆者はノルウェーからの水産物買付の最前線にいました。買付交渉の際によく引き合いに出されるのがロシア向け。価格で合意できないと、ロシア向けに販売されてしまうケースがありました。交渉する立場からすれば、ロシア向けが停止することで、ノルウェー側の交渉が弱くなり、相場が下落していくだろうという考えが一般的でした。

数量ベースでのノルウェーからの水産物の輸出推移(出所)Statistics Norwayより筆者作成 写真を拡大

 上のグラフは、ノルウェーからの水産物輸出の推移を数量ベースで表したものです。クリミア半島での問題で、それまで数量で13%のシェアがあったロシア向け(緑の折れ線)が、14年に急減し、15年以降はゼロになっていることがわかります。

 ロシアの禁輸措置を受けて、オスロ市場では水産企業の株価が軒並み下落。ノルウェー政府は、販促資金の増額や、関連規則の緩和による輸出促進を行い、禁輸の影響を最低限に抑える対策を練りました。


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