2023年8月31日、水産庁は24年度予算の概算要求を発表した。デジタル庁計上分を含めると2587億円と、23年度の1919億円から大幅な増額である。水産予算は、18年度までは前年度補正を含めおよそ2300~2400億円で推移していたが、19年度には前年度補正含め約3000億円、22年度には3200億円と大幅に膨張している。
予算が19年度から一気に増額されたのは、その前年に国会を通過した漁業法の改正に伴って実施されることとなった水産改革がきっかけになっている。農林水産省の統計によると、1960年代初めには70万人近くいた漁業者は右肩下がりに減り続け、22年には12万3100人と過去最低を記録した。漁業・養殖業生産量も1984年の1280万トンをピークに、2022年はこちらも過去最低の385万8600トンまで落ち込んでいる。
要因の一つは、資源管理の失敗と「取り過ぎ」にある。政府も遅ればせながらようやく改革に乗り出し、グローバルスタンダードとなっている「最大持続生産量(MSY)」という考え方に基づく科学的資源管理枠組みを本格的に導入することが目指された。水産改革を確かなものにするため、予算が大幅アップされたのだ。
水産改革の本旨に即し、科学的資源管理を拡充するためには、資源調査などに対する大幅な予算増額があって然るべきである。ところが、18年度に「資源調査の充実による資源管理の高度化」という項目に計上された予算は46億円であったところ、23年に「資源調査・評価の充実」の名目で計上された予算は68億円と、その伸びは20億円程度に過ぎない。水産予算全体の比率で言うと、この予算項目が占める割合は僅か2%である。
では何がそんなに水産予算の中で増額させたのか。非常に目立つものの一つが漁港整備等に充当される公共予算である。18年度は当初予算718億1700万円、前年度補正148億2400万円を合わせると866億4100万円だったものが、23年度は当初予算813億円、前年度補正314億円を合わせると実に1127億円の千億円の大台を突破、18年度と比べると1.3倍に膨張している。
水産予算全体に占める割合も35%とずば抜けて大きい。来年度概算要求でも、公共予算の中で最も額の占める割合が高い「水産基盤整備事業」は、さらに20%の増額要求がされている。
ある有名な水産庁OBは、かつて「日本には豊かな海が残っている。そして漁港さえあれば何とかなる」と説き、「国破れても漁港あり」と喝破したことがある。水産予算の現状を言い当てて妙な表現であるが、サンマの不漁などにも典型的に表れているように、残念ながら豊かな海も、徐々に失われつつある。