全国に散らばる「豪華漁港」
予算正当化する不思議な理屈
漁業者も漁獲量も右肩下がりの一方で、漁港整備費用だけはうなぎ登り。実際、漁獲高が都道府県で首位の北海道を回ると、コンクリートで立派に整備された漁港があちらこちらに設けられている。だがそんなに漁港の整備は必要なのだろうか。一つ一つ見てゆくと、首をかしげたくなるものが少なくない。
北海道・留萌管内北部の遠別町にある遠別漁港を一つの例としてみてゆこう。北海道の他の地域と同様、遠別町も急速な過疎化に悩まされており、同町の統計によると、10年3月に3121人であった町人口は23年8月時点で2349人と、15年も経たないうちに4分の1減少している。日本海に面している同町では、水産業が重要な産業であると考えられるが、水産庁HPの資料によると、この町の漁協の組合員は23人、水揚げ金額は約15億円であり、その9割以上がホタテ貝養殖漁業であるとされている。
この漁港では、02年度から20年度にかけて総事業費58億5600万円をかけて漁港整備が行われている。漁協組合員の数で割ると、1人当たり約2億円を超える計算になる。水産庁の資料によると、整備の主たる内容と目的は、「ホタテ種苗供給基地として、外郭施設、航路の整備により漂砂による航路・泊地の埋没を防止」することや屋根付きの岸壁の整備とされている。
多額の予算を投じるものである以上、漁港の整備に際しては、水産庁により事前評価と事後評価がなされ、漁港整備に見合う便益が得られるか推算が行われる。そしてこれまで実施されたどの漁港整備でも、便益は費用を上回ると結論付けられている。しかし、その算定根拠には疑問を呈さざるを得ないものが散見される。
この遠別漁港の例でいうと、年間で4億3300万円の便益が得られるはずであるとの見積もりがなされ、費用便益は1.21となっている。つまりこの漁港整備費用の1.21倍の便益が見込まれるとの計算だ。
この年間便益で最大の割合を占めているのが、「避難・救助・災害対策効果」という項目であり、年間で総推定便益の半分である約2億円が計上されている。この計算がなければ、便益は費用を大きく割り込んでしまう。
この積算根拠となっているのは、以下のような仮定に基づく計算である。年間2隻の漁船が荒天のために漁港などに避難する必要に迫られるが、その際に7.8%の確率で船が全損、15.8%の確率で重損傷、21.8%の確率で軽損傷すると推定し(つまり約5割弱の確率で軽損傷以上のダメージを受けるとの仮定である)、その際の船の損害額、休業による損失額、および人員の負傷による損失額の合計が占めて約2億円になる、というものである。
年間に5割に近い確率で、そのような事故が発生すると推定するのは合理的なのであろうか。そもそもこの漁港は主としてホタテ養殖業に利用されるものであり、そこに「避難」という名目のもとに多額の推定便益を計上することが、妥当なのであろうか。