2024年12月2日(月)

日本の漁業 こうすれば復活できる

2022年5月4日

 新年の風物詩、豊洲初競りの大間マグロのヤミ漁獲問題がニュースを賑わせて久しい。昨年11月、青森県・大間漁業協同組合所属の一部漁船がクロマグロの漁獲を過少申告していることが発覚したのである。

市場に並ぶマグロがヤミ漁獲によるものであることも少なくない(linegold/gettyimages)

 問題が明るみとなったのち、大間漁協は6~9月分として計14トンの未報告分を追加報告しているが 、露見したヤミ漁獲は氷山の一角ではないかとも言われており、全容解明には至っていない。漁獲量の虚偽報告は漁業法第193条により「6月以下の懲役又は30万円以下の罰金」の刑罰が規定されているが、今のところ、この問題で誰も漁業法違反に問われてはいない。大間のマグロを取り扱った回転寿司「スシロー」を展開するFOOD & LIFE COMPANIESは、漁獲枠に沿ったものか確認が取れなかったとして謝罪に追い込まれた 。

 漁業協同組合の全国団体、「JF全漁連」の代表理事会長が同じく会長を務める「JFしまね」では、海上保安庁が認知したアワビやサザエの密漁が2017年から21年までの5年間で計85件、103人の密漁を認知したにもかかわらず、何の罪にも問われなかったという問題も明るみとなっている 。「サザエ1個」といった軽微な事例もあるものの、600個余りのサザエを密漁したという極めて悪質なものも含まれている 。

 これらの密漁は漁業権の侵害として漁業法第195条違反に該当する。ところが、JFしまねは何らの告発を行わず、漁業権侵害は親告罪であることから、検察は起訴することができなかった。密漁は黙認される結果となったのである。

 漁業者の全国団体の代表が会長を務める県漁連の下でこの有様である。密漁が、大手を振ってまかり通った。

法改正されるも弱い罰則制度

 罰則が低すぎ犯罪抑止効果が極めて限定的だとの指摘は以前よりされており、18年に改正された漁業法で罰則の引き上げが行われている。すなわち、第132条1項において悪質な密漁の対象となるおそれが大きいものを「特定水産動植物」として指定し、漁業権や漁業の許可等に基づき採捕する者を除いて原則として採捕を禁じるとともに、違反者に対しては3年以下の懲役又は3000万円以下の罰金が科されることとなった。

 何を「特定水産動植物」に指定するかは農林水産省令で定めるとされており、漁業法施行規則(令和2年農林水産省令第47号)第41条により、アワビ、ナマコ、シラスウナギ(ウナギの稚魚)の3種が「特定水産動植物」に指定されている。但し、シラスウナギについては3年間の猶予期間が設けられており(同規則附則第2条)、ウナギの密漁が同法違反に問われるのは23年12月以降である。

 ナマコなど「特定水産動植物」に指定された種は反社会勢力の介在した密漁も指摘されており、これまでの罰金の最高額が200万円だったものが、10倍以上引き上げられた形である。すでに「特定水産動植物」密漁違反の摘発が行われており、21年、北海道では組織的なナマコ密漁事案に対して最高2360万円の罰金が課せられた 。しかし、罰則の引き上げが犯罪の抑止に十分であるか、はなはだ疑問の残るところである。

 函館地裁は21年10月、組織的にナマコ900キログラム超の密漁を主導したとして暴力団員の男に懲役2年4月、罰金750万円の判決を言い渡している。摘発された密漁で得た利益は1億円を超えていたと考えられており、函館地検はこの主犯の男に懲役3年、罰金1500万円を求刑していた。しかし最終的に被告は罰金750万円と追徴金約250万円を負担したにとどまり、犯罪で得られた金額を大きく下回っている 。

 なお、「特定水産動植物」に関する違反以外での漁業法での最高刑は懲役3年、罰金300万円である。実刑判決は上記のナマコの事例のような組織犯罪絡みか極めて悪質な事例でもない限り極めて稀であるため、この程度の罰金では犯罪を抑止するためにも十分と言えない。


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