厳しい資源管理で乱獲を防いだ米国
では、漁業先進国では密漁に対しどのように取り組んでいるか。ここで一つの例として米国を見てみたい。かつて乱獲により水産資源の荒廃が進んだ米国の水域は、連邦管轄の水産資源管理を規定する「マグナソン・スティーブンス法」の改正・強化(1996年と2006年)を通じて科学的根拠に基づく漁獲枠の決定、乱獲の防止並びに資源の回復が試みられてきた。
この結果、水産資源管理を所管する米国海洋大気庁(NOAA)の下での資源評価によって資源状態が判明しているもののうち、漁獲圧が過剰で乱獲状態にある資源は20年現在8%にまで減少し、2000年以降47の漁業資源の回復が図られているとされている 。米国より遥かに緩い基準で評価している日本の水産資源の半数が低位にあるとされているなか 、その違いは歴然である。
こうした持続的な資源管理を支えているのが、その履行を確保するための制度であり、その一つが違反者に対する罰則である。同法における罰則の最大額は違反1件について18万9427ドル(約2400万円)、6カ月の禁固刑とされている 。ただし銃器等を用いて警察官や漁業監視員に対して威嚇したり危害を加えた場合は20万ドル以下の罰金や10年以下の禁固刑に処される場合がある。
違反が軽微なものについては、是正措置を促すか文書による警告に留める場合もある。しかし、中程度から重大な違反行為に対しては罰金の賦課という手法も多く用いられる。この罰則については、NOAAが適用についてのガイドライン を示している。以下それに即して見てみよう。
まず違反行為をその重大性から最も軽微な「レベルⅠ」から最も重い「レベルⅥ」までレベル分けするとともに過失・故意の度合いから4段階に分類し 、この双方を掛け合わせた「罰則マトリックス」を用いて罰金を査定している。下記の2つの表が違反の重大性による分類の例と、「罰則マトリックス」である。
「罰則マトリックス」の各欄に示されている罰金の範囲の額の平均(括弧内の数字)が基本罰金額(base penalty)となる。これを、個々の事情(過去の犯歴や情状など)により調整する。調整は、各ボックスに示されている罰金の上限から下限までで調整するか、あるいはその表で左右方向に1つ隣にある罰金額により評定することによって行う。最後に、違反行為により得られた経済的利益を足し合わせたものが罰金額の指標である。まとめると、以下のような計算方法だ。
違反行為ごとに積み上がっていく罰金
では、どのように適用されるか。NOAAのガイドラインに示されている例に即して説明してみたい。たとえば、ある船長が所有・運営する漁船に200キログラムの漁獲枠があるところ、その倍の400キログラムの魚を捕ったとする。船長は200キログラムしか水揚げしなかったと漁獲報告書に虚偽内容を記入し、監督庁に報告するとともに、漁獲した魚を1キログラム当たり12ドル、合計4800ドルで業者に売却した。なお船長に操業等に関する犯歴はない。
この場合、船長は漁獲枠超過違反が問われる。これはレベルⅡの違反行為であり、故意・改質の度合いはレベルD(故意)となる。Ⅱ-Dの欄にある罰金額の中間値の1万8000ドル、約230万円が罰金基本額である。
船長には犯歴がないので個々の事情による調整に関しての罰金額の増減はない。しかし、漁獲枠の超過分を不当に経済的な利益を得ているので、これが上乗せされる。この場合、200キログラム枠を超過して漁獲しているので、その分の売上げである2400ドル(約31万円)がプラスされる。合計で2万400ドル、約261万円の罰金だ。
しかしこれだけでは終わらない。船長は虚偽の漁獲報告の違反にも問われるからである。これは漁獲枠の超過よりも重いレベルⅢの違反行為となり、故意・過失の度合いはレベルD(故意)で、III-Dの欄の罰金平均額の3万6000ドル、約460万円が罰金基本額となる。全部ひっくるめると、合計の罰金額は5万6400ドル、実に約720万円である。
以上のNOAAが示した罰則のガイドラインはあくまで参考的なものであり、実際の罰金額の評価は必ずしもこれに拘束されるものではないことには強く留意する必要がある。しかし、個々の違反についての罰金を積み上げ、しかも違反行為で得られた収益も足し合わせてしまうので、時として実際に非常に高額な罰金が科させることがある。