2024年11月22日(金)

日本の漁業 こうすれば復活できる

2022年5月4日

 例えば19年、アラスカのベーリング海で操業を行っていた漁船の操業員が乗船していたオブザーバー(操業監視員)に危害を加えたため5万5000ドルの罰金を請求されたケースや、禁漁区域で操業を行い操業記録を改ざんしていたハワイのはえ縄漁業者に対して6万1000ドルの罰金が請求されたケース。虚偽報告、漁法制限違反、操業区域違反、オブザーバー乗船義務違反等々違反の限りを尽くしていた大西洋で操業していた密漁者が、漁業許可取消と所有漁船2隻没収されるとともに、合計で300万ドル支払いを命じられたケースなどがある 。

他国も監視を含めた厳格な管理を徹底

 無論、やみくもに罰をつり上げることのみによって違反は減らないだろう。事後的に罰を与えるだけでなく、オブザーバーや電子的に操業状況を記録して監視し、違反を未然に防ぐ仕組みも必要である。実際、米国でもオブザーバー制度や電子モニタリングが種々の漁業において導入されており、また現在約4000隻超の漁船には衛星船位測定送信機(VMS)が設置され、どこで操業を行っているかが機械的に記録されている 。

 持続可能な漁業のための厳格な資源管理を導入して漁業で大きな収益を上げているノルウェーや豪州、ニュージーランドでは、どの国もVMS等船位を記録するシステムを導入しており、豪州やニュージーランドではオブザーバー制度も設けて操業を監視している。罰則に関して、豪州での漁業管理法に関する罰金の最高額は166万5000豪ドル(約1億5500万円) 、ニュージーランド漁業法では25万NZドル(約2130万円)となっている 。豪州は罰を与えるということよりも、教育や啓発、モニタリング等の履行監視を通じて自発的にルールの順守を促す、あるいはルール違反を抑止するアプローチをとっているとされている 。

日本に求められること

 漁業先進国の事例を見ると、履行確保の点で日本に足りないものは明らかだ。ナマコやアワビの密漁と言ったごく一部の違反にとどまらず、それ以外についても罰則を引き上げるとともに、犯罪によって得られた収益を罰則額に加算するようにして密漁が「割に合わない」ものとする必要がある。加えて、法令違反を抑止するためにも、オブザーバー制度やモニタリング制度の導入を進めるべきである。

 このような提案に対し、水産庁の担当官は「欧米諸国は性悪説で漁業者を管理するが、日本では漁業者の自主的な取り組みを信頼するやり方がいいのではないか。監視員を配置するにも人手が足りず、監視カメラの設置にはコストがかかり、すぐに導入というのは難しい」と後ろ向きだ (「70年ぶりに改正された漁業法 水産改革を骨抜きにするな」)。しかし「漁業者の自主的な取り組みを信頼」した結果、島根では密漁が放置されたのは見てきたとおりである。

 また、日本の1.7倍の排他的経済水域を有する米国の連邦レベルで実施されているオブザーバープログラムの費用は19年度現在で総額8010万ドル、約100億円程度に過ぎない 。日本の22年度の水産予算は1928億円、21年度の補正予算と合わせると3201億円にのぼる 。

 オブザーバー制度の導入が日本にとって巨額の負担となるとは思われない。また米国の上記オブザーバー制度の総員で850人に過ぎず、しかも政府の常勤職員は3人で、あとは外部に委託している。電子モニタリングを活用すれば、コストは相対的に低く抑えられるであろう。米国西海岸でも漁船の約半数が人件費や居住スペースのかからない電子機器を通じたEモニタリングに切り替えたとのことである 。

 18年の漁業法の改正により、ようやく日本でも科学的な資源評価の拡大とそれに基づく資源管理を本格的に導入し、個別の漁獲枠の導入が進められようとしている。しかし、いくら科学ベースに基づく漁獲規制を導入したとしても、守られなければ意味がない。そうした「規制を守るように促す」ための仕組みが、残念ながら到底十分と言えない。持続可能水産業を推進し、漁業を成長産業にさせるためにも、履行を確保するための仕組みの整備が今まさに必要とされているのである。

 
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 四方を海に囲まれ、好漁場にも恵まれた日本。かつては、世界に冠たる水産大国だった。しかし日本の食卓を彩った魚は不漁が相次いでいる。魚の資源量が減少し続けているからだ。2020年12月、70年ぶりに漁業法が改正され、日本の漁業は「持続可能」を目指すべく舵を切ったかに見える。だが、日本の海が抱える問題は多い。突破口はあるのか。
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