ノバルティス製薬の血圧降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)に、脳卒中予防など血圧を下げる以外の効果もあるとした臨床試験の結果が、虚偽のデータを用いたものと明らかにされ、大問題となった(「バルサルタン臨床試験疑惑」毎日新聞2013年8月10日朝刊など)。
こういうことが起きると、すぐに規制だということになるのだが、実はそう簡単ではない。規制するためには、その分野について良く知っている人を集めてこなければならない。しかし、そのような人々は皆仲間同士ということがよくある。原子力の安全規制が失敗したことを思い出して欲しい。規制者は、規制される電力会社に取り込まれていたのだ。
むしろ、企業同士の競争によって虚偽を防ぐということはできないだろうか。
偽造論文で損害を受けたのは、
国民よりも競合他社
脳卒中の予防効果もあるということからより多くバルサルタンが使われたとしたら、効果のない薬品に税金が使われたことになり、国民が損害を受けたことになる。しかし、どうせ降圧剤を使うなら、脳卒中予防の効果のある薬を使った方が良いとして使われた場合の方が多いだろう。すると、血圧降圧剤全体の使用量はそれほど増加しなくて、バルサルタンの使用量が大きく増加したと思われる。
バルサルタンの2012年売上高は1083億円、競合他社の、医薬品情報を医師に伝えながら自社製品の販売促進活動を行うMR(医薬情報担当者、Medical Representative)によると、「妬みたくなるぐらい売れていました。(中略)ここ数年は年間1000億円以上を売り上げていた」という(「ドル箱降圧剤の論文撤回 有名教授(京都府立医大)と製薬会社(ノバルティスファーマ)の闇」『フライデー』2013年5月3日号)。
すると、累積では1000億近く、他社の降圧剤が売れなかったことになる。薬の開発費は巨額で、数千億、場合によっては兆単位の開発費のかかる薬もあるが、いざ開発して製造すれば、ほとんどコストはかからない。薬を作るだけの製造原価は、おそらく販売価格の10%もないだろう。すると、ノバルティスは1000億近くの追加利益を得、競合他社は同じ額だけの機会損失を被ったことになる。それに対して、効果のない薬を使わされたことによる患者と健康保険と保険の赤字を税金で埋めている国の損害は、バルサルタンが脳卒中予防の効果のある薬として積極的に使われたわけではないようだから、せいぜい百億円ということだろう。