例えば、金融関係の情報については、世界中の上場企業は基本的に半期ごと、もしくは四半期ごとに決算関連の情報が出るし、役員人事や新製品情報、更にはM&A(合併・買収)、増資、減資など多くの情報を開示する。そのたびに、開示情報を解説するニュース原稿が必要になる。
企業によっては現地語で発表があったのを、英語に翻訳しながら報道することも必要になる。もっとも、主要な企業の場合はニーズも大きいので、今は人間の記者が原稿を書く。
だが、中小の企業になると、なかなか手が回らない。そこで、こうした金融情報の流通は、1980年代以降は一般の新聞社や通信社ではなく、金融情報に特化した企業が担っている。
こうした分野では、元来がテンプレートという定型化した文章が情報流通に利用されてきたが、現在はこれをAIに置き換える研究が進んでいる。問題は、金融情報というのは場合によっては、一字一句の違いで巨額なカネが動く性質のものであり、AI化への移行過程では、誤情報の生成・流通を警戒しなくてはならないと言われている。
全米の脚本家がAIを恐れる理由
第二段階は、人間の仕事がAIに奪われるという可能性だ。金融界というのは、良くも悪くも経済的な効率が判断の基準となっている。世界の金融情報の流通も、AIが精度も含めて人間に勝るようなら、躊躇なく実用化が進むであろう。
法務や金融の分野は、絶対に間違いが許されない。そこに、当面の間は人間が介在する必要性が生まれる。つまり、人間の職はある程度保証されている。問題は文化や芸術の分野だ。
例えば、TVの簡単な脚本がそうだ。トークショーのゲスト紹介の部分、情報番組の新製品紹介とか料理のレシピ紹介などの脚本であれば、仮に演出家がわざわざ放送作家に発注しなくても、AIに原稿を書かせることは可能だ。
同じように、子供向けの連続アニメの脚本なども、ストーリーラインが定形的であるだけにAIの生成で実用になるだろう。天気予報、音楽番組の司会原稿などもそうだ。
今回、全米脚本家組合(ライターズ・ギルド)が主導して、ハリウッドのエンタメ産業に参加している全ての脚本家が、AIの生成した脚本をそのまま使用することの禁止を求めて、ストライキを打ったのには、こうした深刻な問題意識がある。もちろん、他の条件改善要求も交渉では含まれていたが、とにかくAI使用の禁止を要求したというのは特筆に値する。
米国のエンタメ産業の脚本家というのは、専業であって、現場から叩き上げで育ってくる。2時間の映画全体に個性的なセリフを散りばめたオリジナル作品を手掛けるようになるまでに、それこそ短いコントやトークショーの脚本などを経験する。つまり、大きな裾野があることで、優れた才能も見出されるという仕組みだ。
だからこそ、一見地味な「細かい脚本の仕事」が重要になってくる。今、このタイミングで組合が強硬なストライキに打って出たのには、そのような危機感が背景にある。