上記Elizabeth・Brawの指摘は、的を射ている。最早、ビジネスでも観光旅行でも、中露両国に行くことは極力控えるか、必要最小限にとどめることが賢明である。
中国では2014年に「反スパイ法」が施行されて以降、17人の日本人が容疑内容の具体的説明もなく拘束され、内1人が病死し、11人は刑期を終えるなどして帰国しているが、23年4月現在5人が未だに拘束されている。
特に今年5月に拘束された製薬会社幹部職員のケースは日本国内で大きく報道され、「中国リスク」への理解が深まった。さらに、今年7月に「反スパイ法」が改正され、中国当局の恣意的解釈の幅が広がっていることは日本において周知されている。
身の安全に対するリスク増大が、安全なサプライチェーンの確保(製造拠点の中国からの移転)と併せ、経済分野の対中依存度を下げる動きの大きな要因になっている。
今後、中国との関係で特に注意を要すると思われるのは、「国家安全法」(17年制定)と「国防動員法」(10年)である。前者の法律により、中国国民・企業は、政府の指示があれば、スパイとして協力する義務がある。
この法律に基づき、協力を強いられている中国人は既に日本国内に存在していると推定される。また国防動員法では、国家は有事の際、民間人や施設を動員でき、中国国内の外資系企業も対象となっている。
胡錦涛政権時代、中国は、対外的には「平和的台頭」を標榜し、周辺国に脅威を与えないよう配慮していたし、日本との関係は基本的に「良好」であった。それでも、大使館員と特派員は、盗聴と監視の対象であった。
増大する中国の不透明感
現在の中国は、当時と比較にならないほど「監視の目」が張り巡らされており、政府関係者も民間人も中国国内での発言、行動の面で一層の注意が必要であろう。
最近、中国は米中首脳会議や日中韓首脳会議を模索する動きを見せているが、その動機は外国投資の低迷、半導体などハイテク分野の分断の動きを改善したいとの思いがあると考えられる。その一方で、南シナ海や尖閣諸島における「力」による既存秩序変更の動きに何ら変化はない。
また、中国国内では幹部の消息不明、コロナや洪水被害の死傷者数、若者の失業率の隠蔽、不動産市場の低迷、習近平思想教育の強化、密告奨励などの動きがある。中国の国内政治・経済の不透明感は増大しており、今後「国内の監視や統制」が更に強化されることが懸念される。