前回同様に、中国側は日本海で初となるロシアとの軍事協調を盛んにプレイ・アップしたが、主催国のロシア側は外国メディアの取材を制限するなど抑制的な広報に終始した。しかも、演習場所は日本海の公海上ではなくウラジオストク沖の湾内となり、政治的に日米を牽制する姿勢も中露間で相当の温度差が見られた。
今年の洋上演習には中露合わせて約20隻の艦艇が集結したが、05年に実施された1万人規模の合同演習と比較すると小規模である。かつては中露の軍事的連携ぶりを第3国にアピールするという「外向け」の演習であったが、今では相手の海軍能力を相互に把握する「内向け」の演習に転じている。
ロシアからすれば将来的な北極への海洋進出が見込まれる中国海軍の実力を、中国からすればロシアが先進する対潜水艦作戦能力を、毎年の軍事演習を通じて直接把握することに目的がある。さらに、今回は、ウラジオストクという太平洋艦隊の拠点に中国艦艇を招くことで、ロシア海軍のプレゼンスを誇示して、人民解放軍の将来的な北方海洋進出を牽制したいとの思惑も読み取れる。
プーチン自ら視察した極東抜き打ち演習
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中露合同演習の最終日にあたる7月12日、軍の最高司令官であるプーチン大統領はショイグ国防相に対して、翌日から極東全域で緊急抜き打ちの軍事演習を実施するよう命じた。ソ連崩壊後最大規模の極東演習と言われた「ボストーク(東方)2010」の参加兵力2万人に比べて、今回の参加兵力は16万人となった。
演習内容は、ハバロフスクなどから兵員・車両がシベリア鉄道を利用して日本海沿岸へ急行し、フェリーでサハリンに上陸するという、約3000キロに及ぶ緊急展開訓練が行われた。オホーツク海では、太平洋艦隊の6つの船団による戦闘訓練が行われたほか、北方領土に駐留する部隊も演習に参加し、爆撃機による日本周辺での近接飛行や日本海における射撃訓練なども行われた。
実は、今回の抜き打ち演習と同じタイミングで、中露合同演習に参加した中国軍艦5隻が、7月14日に宗谷海峡を越えてオホーツク海に進出し、千島列島から太平洋へ抜け、日本を一周する形で本国へ帰還した。これに合わせるかのように、中国艦船と前後する形で、二手に分かれたロシア艦艇計23隻が宗谷海峡を通過してオホーツク海の演習海域に急行した。そのため、抜き打ち演習の実施が、中国軍艦による史上初のオホーツク海進出を牽制しているのではないかとの見方が浮上した。