その理由として、第1に、昨夏にオホーツク海で実施された7000人規模の軍事演習も、北極探査に向かった中国砕氷船「雪龍」がオホーツク海を横断するタイミングで実施された。第2に、プーチン大統領の演習視察場所に選ばれたのが、中国軍艇が立ち入ったオホーツク海に面するサハリン州と中露国境付近であった。第3に、ロシア軍の即応態勢を点検する抜き打ち演習は、本年2月から約20年ぶりに他の軍管区でも実施されたが、極東演習のみ桁外れの規模となった。
実際に中国を視野に入れた演習かどうかは不明だが、対外的にそのように認識されることをロシア自身が厭わなかったことは明白である。中国へのミスリードを避けるのであれば、中露合同演習と抜き打ち演習を連続して実施する必要はないからだ。
8月にもオホーツク海を中心として艦船50隻、兵員5000人が参加する海軍演習が繰り返された。今回はコンテナ船初の北極海航行としてオランダに向かう中国貨物船が宗谷海峡からオホーツク海に入るタイミングと重なったことから、上記の見方がさらに強まる結果となった。
ロシアは「原子力潜水艦の拠点」として、冷戦時代からオホーツク海を外国船の立ち入りを認めたくない「内海」と見なしている。そこで、オホーツク海が「中国船による北極海への抜け道」となることに対し、軍事的に反発しているとも受け止められる。8月16日、ロシアは国連に対してオホーツク海大陸棚の延伸を申請し、同海の管理強化に乗り出した。
12年5月の大統領令において、プーチンは「北極・極東の海軍増強」を指示したが、これが単純に日米だけに向けられたものとは考えにくい。ロシアは冷戦終結後、11年からオホーツク海を舞台とした大規模な軍事演習を開始したが、この演習直後に実施された日露外相会談において、ラヴロフ外相は「本演習は日本を刺激する意図はなく、誤解を生まないためにも防衛当局間の緊密な関係を構築したい」と述べ、日本との防衛交流の強化を提案した経緯がある。