2024年5月20日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年12月4日

 2023年11月8日付の英フィナンシャル・タイムズ紙は、イランは今回のガザの衝突で利益を得ているが、米国およびイスラエルと直接対峙することを迫られる事態となり、11月3日のヒズボラの指導者の演説は、イランが米国と交渉しようとする最初のメッセージだったというレバノン人ジャーナリストのキム・ガッタスの論考を掲載している。

2023年11月3日、レバノンで行われた、支持者に演説するレバノンのヒズボラの指導者(写真:ロイター/アフロ)

 多くの国々は、11月3日の演説でヒズボラの指導者ナスラッラー師が、イスラエルに宣戦布告しなかった事に安堵したが、ガザでイスラエルの大規模な砲撃下にいるパレスチナ人達は支援を断られ、裏切られることになった。しかし、このナスラッラー師の演説は、イラン側が米国と交渉しようとする最初の一手となった。

 つまり、同師は、イスラエルと同じぐらい米国について言及した。そして、イランが最も優先するのは、イスラム革命体制の存続であり、域内の代理勢力を出来る限り維持し、84歳のハメネイ最高指導者からの円滑な指導者交代である。

 イランは、過去44年間、パレスチナ問題を自国の国益のために、アラブ側に対して優位に立つために利用して来た。イランは、代理勢力を使ってイスラエルを攻撃して米国に脅威を与え続け、域内を混乱させて来た。しかし、このパレスチナ問題を利用する戦略は10月7日にハマスがイスラエルを攻撃すると、イスラエルのガザに対する怒りの報復のみならず、米軍の増強により消え去った。

 10月7日のハマスの攻撃の大きさとその影響は想定以上であり、イラン側は、突然、米国及びイスラエルと直接対峙する事態になり、その結果、イランの国益は、パレスチナ問題から切り離された。 

 ナスラッラー師は、「ハマスの作戦は、100%パレスチナ人の判断によるものである」と述べ、ヒズボラやイランに対する報復を避けようとした。イランにとりヒズボラは、イランのイスラム革命体制が脅かされた時の第1次防衛線であり、パレスチナ人のためにヒズボラを犠牲には出来ない。その代わりにイランは、シリアとイラクにいる米軍への攻撃を増加させ、ヒズボラはハマスを支援しているふりをしている。

 現在、同時並行で二つの戦争が起きている。一つはハマスとイスラエルの直接戦争、もう一つはイランが仕掛けている間接的な戦争である。その事は、同時に二つの外交努力が存在することを意味する。


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