2024年11月21日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年11月27日

 2023年10月30日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙コメンテーターのギデオン・ラックマンが、中東の主要国は更なる紛争を望んでいないが、それにもかかわらず全面戦争が起こる可能性があると警告している。

(Diy13/schankz/gettyimages)

 何故1914年6月にサラエボでのオーストリア大公暗殺が、第一次世界大戦に拡大したのか。欧州の指導者達は、欧州の全面戦争回避のために努力したのだが、失敗した。

 今、同じような意図せざる戦争拡大の危険が中東に出ている。

 戦争の拡大は如何に起きるか。先週、米国がシリアのイラン支援民兵を爆撃した。米国は、イランの代理勢力による在イラク・シリア米軍への攻撃への対抗だと述べた。

 イランが支援するレバノンのヒズボラの役割が重要だ。イスラエルの首相は、レバノンから攻撃があればレバノンを「壊滅させる」と脅迫した。しかし、そうなれば、イランはヒズボラ支援のためにレバノンにイスラム革命防衛隊(IRGC)を派遣するかもしれない。そうなれば、イスラエルはレバノンだけでなく、イランにいるIRGCを攻撃するかもしれない。

 ヒズボラを巻き込む戦争になれば、他のイラン代理勢力も、イスラエルや米国の標的を攻撃する可能性が高い。イランは、ホルムズ海峡を封鎖するかもしれない。石油が通る同海峡の封鎖は世界経済を暴落させ、サウジに直接の脅威をもたらす。

 米海軍は、海峡を再開しようとする。しかし、イランとその代理勢力がそれに反撃する。バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、シリア、イラク等中東地域に展開する米軍関連施設が攻撃されるかもしれない。

 米国が特に懸念するのは、イランの代理勢力のひとつイエメンのフーシ派だ。彼らはサウジと戦争を闘って来た。フーシ派は先週、イスラエルに向けてロケットを発射した。彼らは以前サウジの石油施設を攻撃した。

 サウジのムハンマド皇太子(MBS)は、地域戦争のリスクを非常に心配している。ムハンマドの戦略は、「イスラエルに圧力をかけるように米国に圧力をかけること」だという。米国は、MBS、カタール、更には中国がイランに対し危険の拡大回避と自制の必要性を説得することを望んでいる。

 この危機は、既にMBSとイランのライシ大統領との対話につながった。第一次世界大戦の前にロシアとドイツの皇帝が行ったように、イランとサウジの指導者は、壊滅的な戦争を回避しようとしている。1914年には失敗したが、今回は異なることを願う。

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 ラックマンが語るハマスとイスラエルの闘いが中東全域の紛争に拡大する危険なシナリオは良く分かる。それが簡単に起こるようには思えないが、関係国が誤算しないように十分注意していく必要がある。


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