イスラエルも紛争拡大になるような行動は自制すべきだろう。そのためにも米国の役割は重要である。今のところサウジやエジプト、ヨルダン等が主要な反応や行動を起こしていないことは幸いであり、西側諸国はそれらの国との連携を強めておくことも緊要だろう。
連鎖の発火点がヒズボラになるとのラックマンの指摘は、おそらくそうだろう。しかし、それで戦争が拡大するかは、イスラエルの反撃の度合いにもよる。ヒズボラも自分達の存立が掛るような無駄な戦争はしたくない。
ヒズボラの指導者ナスララは、11月3日のビデオ演説で、対イスラエル戦線を布告するようなことは言わなかった。今のところ抑制されている。しかし、断続的な軍事衝突が拡大することはあり得る。
その場合、イランの介入のタイミングと度合いが注目される。それは熱戦でなくても、石油を通じて世界経済に甚大な影響を与える。更に、米国は中東地域に一定の空母など軍事アセットを維持せざるを得なくなる。今一番利益を感じているのは、ロシアのプーチン大統領であろう。
サウジとイランの関係は非常に重要だ。MBS皇太子は、10月12日に初めてイランのライシと電話で協議した。その後、ライシは11月12日にサウジを訪問し、パレスチナ問題協議のためにリヤドで開かれるイスラム協力機構(OIC)首脳会議に出席した。
イスラエルは、パレスチナの平和イニシャティブを取ることが重要だ。軍事だけでは解決できない問題である。他方、ネタニヤフは11月7日のインタビューで、ガザ作戦の後イスラエルは「無期限に」ガザの安全を統制するとの考えを述べた。これは懸念される。
第一次世界大戦時との6つの違い
ラックマンは、今回パレスチナ紛争の拡大を世界第一次大戦勃発に重ねる。しかし、2023年の中東は1914年の欧州とは大きく異なる。
第一に、中東には第一次大戦前のような同盟網はない。勢力均衡も宗教や民族の対立も、より複雑である。
第二に、現在の国際社会では、国家のみならず、テロリストやその他の武装組織が力を持つようになり、外交や交渉が、より難しくなっている。
第三に、核兵器を含む大量破壊兵器の出現によって、戦争は単なる政治の手段に留まらない。
第四に、全面戦争の大義は今の中東にはないのではないか。嘗てのようなアラブ対イスラエルの大義は薄れ、各国とも経済等を含め個別のナショナルな利益を追求する姿勢を強めている。イランも、限定的攻撃を継続することはあり得ても、今本気でIRGCを使って全面戦争に出るようには思えない。しかし、非合理な独裁的指導者が愚かな決定をするリスクは常にある。
第五に、情報のグローバル化に伴い、国際世論が一定の歯止めになることもあるが、逆に、偽情報等の拡散により、戦争リスクが高まることもあり得る。
第六に、ドローン、AIその他の技術の発展で、攻撃の仕方が、第一次世界大戦期とは異なり、不確実性が高まっている。
このような状況下で、中東の戦争拡大を回避するためには、エスカレーションの要因となるものに慎重に丁寧に対処して行くことが必要である。日本ができることは何か。中東にエネルギー依存している日本は、真剣に考え行動しなければならないだろう。