イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ中心部の病院を攻撃するなど人道危機が深刻化する中、イスラエルがイスラム組織ハマスの奇襲攻撃を事前に察知できなかったのは「ハマスの偽装作戦に欺かれたため」であることが明らかになってきた。その背景にはパレスチナ人同士を対立させる「分断統治」に胡坐をかいてハマスを〝管理〟できると思い込んだ過信がある。
手を緩めないイスラエルの報復攻撃
ガザに侵攻したイスラエル軍は現在、ハマスの拠点がある北部と南部を分断し、北部の住民に南方への退避を促す一方で、北部中心部にあるガザ最大のシファ病院などの攻略に掛かっている。これまでの戦死者はガザ側で1万1000人以上、イスラエル側で約1200人に上った。病院には乳児らの入院患者のほか、多数の民間人が避難しており、攻撃が続けば人道危機はさらに拡大する。
イスラエルのネタニヤフ首相は米国のバイデン政権の圧力を受け、1日4時間の「休戦」には応じたものの、停戦は「人質全員が解放されるまでない」と拒否。世界各地でイスラエルの攻撃を非難するデモが起きている現状に対しても「たとえ世界を敵に回してもハマス壊滅作戦を続行する」と強硬だ。
首相が一切妥協しない姿勢を示しているのは、10月7日のハマスの奇襲攻撃を察知できなかったこと、ホロコースト(ナチのユダヤ人虐殺)以来、最悪の犠牲者が出たこと、これらの失態を厳しく問われ、戦後に責任を取らざるを得ないことなどが背景にある。
しかも、2021年以来、ハマスが大規模戦争を望んでいないような態度を見せたことに騙され、ハマスを思い通りに〝管理〟できていると過信し、ハマスが奇襲攻撃のために周到に準備し、爪を研いでいたのに気づかなかった。米ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズ、地元の情報などを総合すると、ハマスはイスラエルの圧倒的な報復を誘発するような攻撃をあえて計画した。