ヌリエル・ルービニ(ニューヨーク大学名誉教授)が2023年11月10日付のProject Syndicateに「ガザ戦争の経済的結果」との論説を書いている。
ハマスの10月7日の1,400人のイスラエル人の虐殺とイスラエルのガザでのハマス根絶の軍事作戦は世界経済と市場に4つの地政学的シナリオを提示した。
第1のシナリオは、戦争はほぼガザに限定され、イスラエルとイランの代理人との小さな衝突はあるが、それを超えた地域的拡大はないというものである。ネタニヤフ首相は退陣するだろうが、2国家解決の受け入れに世論の反対は強くなっている。したがってパレスチナ問題は続き、サウジ・イスラエル国交正常化は凍結され、イランは不安定要因のままである。
このシナリオの経済的含意は軽い。現在の石油価格の小さな高騰は収まるだろう。イラン経済は現在の制裁下で停滞し、中ロとの緊密な関係への依存は深まるだろう。
第2のシナリオでは、ガザ戦争は地域的正常化と和平に引き継がれる。ハマスに対するイスラエルの作戦があまり多くの民間人の犠牲を出さずに成功し、パレスチナ当局やアラブの多国間連合がガザの行政を担うことになる。ネタニヤフは辞任し、新しい政府がパレスチナ問題の解決とサウジとの国交正常化を目指す。このシナリオは地域と世界にとって非常に肯定的な経済的含意を持つだろう。
第3のシナリオでは、事態はヒズボラ、イランを含む地域紛争に拡大する。イランがヒズボラにイスラエルを攻撃させるとか、イスラエルがヒズボラに先制攻撃を行うとか色々な形があり得る。それにシリア、イラク、イエメンのイランの代理勢力がイスラエルと米軍を挑発する可能性がある。
もしイスラエルとヒズボラが全面戦争になった場合、イスラエルは米国の支援を得て、イランの核施設等への攻撃を行う可能性がある。そうなれば、湾岸からのエネルギー輸出は数か月間停滞する。
これは1970年代の石油ショックの再来をもたらし、世界的スタグフレーション、株価の暴落等を招くだろう。経済的な影響は、米国よりも中国と欧州でより厳しくなるだろう。
第4のシナリオは紛争は地域に広がるが、イランで政権交代がある場合である。イスラエルや米国がイランを攻撃する場合、核施設のみならず、軍事および軍民両用のインフラを攻撃するともに、政権の指導者も標的にするだろう。
イラン人はロウハニ元大統領のような穏健派のもとに結集することもあり得る。政権交代はイランの国際社会への復帰を可能にし、厳しいスタグフレーションはあるだろうが、中東での安定とより力強い成長への舞台は整う。