2024年5月15日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年11月29日

 これらのシナリオはどれほどの蓋然性があるのか。現状維持50%、第2の和平、安定、は15%、地域的大火30%、最後の好ましい地域変化は5%位だろうか。良いニュースは紛争が地域紛争に拡大しない可能性は65%であり、経済的影響は穏健であるということである。

 最も可能性のあるシナリオは世界経済に穏健な短期的影響を示しているが、それは不安定な現状が維持されるということであり、結局新しい紛争になる可能性も含んでいる。今のところ市場は最も穏健なシナリオを好んでいるが、市場はしばしば多くの地政学的ショックを見誤ってきたことも念頭に置くべきである。

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 この論説の筆者ルービニは、クリントン政権でホワイトハウスの経済諮問委員会の上級エコノミストであり、国際通貨基金(IMF)、米連邦準備理事会(FRB)、世界銀行で働いた経験を持つ人である。ガザ紛争がどういう経済的影響をもたらすかを4つのあり得べきシナリオを描き出したうえで評価している論説である。このような分析もあり得るのかと興味を持たされる。

 ガザ紛争が地域的紛争に拡大するか否かについては、この論説の筆者の見方に同感する。11月3日、ヒズボラのナスララが演説をしたが、イスラエル非難をしつつも、全面戦争の時期ではないと述べ、紛争の拡大に慎重な姿勢を示した。イラン側の慎重な姿勢を受けてのことであろう。

 イランというのはホメイニ革命直後に米国大使館を占拠し、大使館員を人質にとるなどしたことで、乱暴な国との印象を持つ人が多いが、イランはよく情勢判断し、そのうえで賢明な行動をしようとする国である。軽挙妄動する国ではないと考えられる。代理勢力を使った小さな衝突は起こすだろうが、それ以上のことをしてイスラエルや米国に攻撃の口実を与えることはないと考えられる。

2国家解決が最善の道

 ガザ戦争が地域戦争になれば、1970年代の石油ショックの再来になり、世界的スタグフレーション、株式の大暴落などが起きるだろうが、その可能性はそれほど高くないと見てよいと思われる。4つのシナリオの内、最も蓋然性が高いのは第1のシナリオだろう。

 第2のシナリオについての蓋然性は15%とこの論説の筆者は評価しているが、もっと高いのではないかと考えられる。今回のハマスの攻撃を許したのはネタニヤフ首相の失策であり、早晩彼は退陣することになるだろう。そうなれば、極右の「ユダヤの力」と「宗教的シオニズム」は政権の中にはいないことになる。

 イスラエルの左派はパレスチナ問題は2国家解決しかないとの考え方であり、これに回帰する可能性は相当あるとみることができる。オルメルト元首相はそう発言しているし、労働党の流れを引き継ぐ党派には2国家解決しかないとの認識が根強くある。ブリンケン米国務長官も2国家解決に向けての外交の重要性を強調している。

 イスラエルが北部ガザを占領統治することはイスラエルにとり大きな負担となるほか、米国もアラブ諸国もそれを受け入れるとは考えられない。

 イスラエル内政の動きを観察しつつ、米国とアラブ諸国の動向に注意しつつ、2国家解決しかないことを日本も強調していくべきであろう。

   
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