2024年12月21日(土)

勝負の分かれ目

2024年1月1日

「一二三の日」に見せた新たな姿

 兄の一二三はこの日、大外刈りが冴え渡った。相手が前に出てきたり、自ら手前に引き込んで担ぎ上げる袖釣り込み腰に対し、大外刈りは相手の重心が後ろに下がったタイミングで有効になる。

 この日は、初戦の2回戦で韓国選手に袖釣り込み腰と見せかけ、大外刈りを繰り出して一本勝ち。3回戦も一本を奪うと、準々決勝はわずか38秒で、大外刈りと袖釣り込み腰の合わせ技で一本勝ち。準決勝は大外刈りによる技ありで優勢勝ちし、決勝は世界選手権銅メダルのモンゴル勢を圧倒。鮮やかな大外刈りで試合を決めた。

 「海外の選手は前の技を意識しているから、後ろの技がきまる。きょうは相手が若干、腰が引けていて、後ろに重心がかかり気味だと感じていた。きょうは大外刈りが決まったけど、また試合が違えば相手が前に出てくることもあるかもしれないし、そこは試合によって変えていこうかな、と。隙のない柔道を心掛けて、もっともっと自分の柔道を進化させていきたい」

 前に出る相手には袖釣り込み腰を仕掛け、袖釣り込み腰を警戒して重心を後ろに下げる相手は大外刈りで仕留める。もちろん理屈はそうでも咄嗟の状況判断が求められる。瞬時に体を反応させる表裏一体の技を駆使できるのは大きな強みで、相手選手は前にも後ろにも容易には動けない。

 圧倒的な勝利を飾ったこの日は12月3日。「一二三の日になりました。圧倒的に勝つという目標に対して、空回りせずに落ちついてできた。パリ五輪に向けてもっと完成度を高めていきたい」と笑顔を見せた。

今や日本柔道の〝顔〟

 21年夏の東京五輪でそろって頂点に立った「阿部きょうだい」は、柔道界で群を抜いた人気と実力で存在感が際立つ。

 先に頭角を現したのは、兄の一二三だった。全日本ジュニア王者にも輝いた14年11月に高校2年では史上初めて講道館杯を制し、同年12月のGS東京は史上最年少Vを飾った。

 16年リオデジャネイロ五輪出場はならなかったものの、17、18年の世界選手権を2連覇。人気、実力で「東京五輪、期待の新星」とその名は柔道ファン以外にも知れ渡った。

 19年世界選手権で頂点を明け渡した丸山城志郎とは、日本柔道界で史上初となる「ワンマッチ」での東京五輪代表決定戦で対決。24分の激闘を制して五輪出場をたぐり寄せると、注目度はさらに高まった。

 一二三の背中を追う妹の詩は18、19年の世界選手権を2連覇。19年秋のGS大阪大会で優勝すれば東京五輪の早期内定が決まったが、決勝で惜しくも敗れた。翌20年2月にドイツで開催された国際大会では、GS大阪大会の決勝で敗れた相手に雪辱を果たして代表の座を手にした。

 迎えた本番では、2人そろって無観客の日本武道館で圧巻の柔道を披露。「最強のきょうだい」を印象づけた。

 東京五輪の歓喜後も、2人は圧倒的な強さを誇る。一二三は22、23年の世界選手権で丸山をいずれも寄せ付けず、ライバル対決に終止符を打って2大会連続の五輪切符を獲得。詩も東京五輪後の両肩手術の影響で22年春の国内大会を準決勝で棄権負けした不戦敗のみで、同年の世界選手権で18年以来となる「兄妹同時V」を飾ると、一二三とともに23年大会も再び「兄妹同時V」で、そろってパリ五輪代表に内定した。


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