日用品の製作で使われる挽曲(ひきまげ)の技法を極め、木材の静謐な美を引き出す独自の表現を確立。独学で巨大な九谷焼の皿を作陶するなど、常識に縛られないものづくりを貫いてきた。使う人が喜ぶ本物を作るという生一本の職人魂は、人間国宝となったいまも揺らぐことはない。
内なる美を引き出す
神代欅造木象嵌隅切飾盆(じんだいけやきづくりもくぞうがんすみきりかざりぼん)。1000年以上もの地中の眠りから掘り出され、現代の空気に触れ、磨かれ、渋みのある色合いを醸し出す欅に、檜の木象嵌で表現された躍動感のある波頭。2012年に木工芸の人間国宝に認定された灰外達夫が翌年の日本伝統工芸展に出品した作品である。
薄い木の板に独特の鋸で細やかに挽き目を入れながら曲面を作り上げていく挽曲技法と、色の違う木を糸のような1ミリの細さで嵌め込む細線象嵌の技を駆使した作品は、木が内に秘めるしなやかさや美しさを最大限に引き出し、シンプルな中に気品を漂わせている。新聞のインタビューに答えて、何もしないのはシンプルではなくただの横着で、シンプルとは手がかかっていてすきっと見えることだと語っていた灰外の言葉を思い出す。
冬の北陸はしびれるような寒さに覆われている。神経を張りつめて待つ玄関先に現れた灰外の姿は、なんと作業着に裸足。
「若い頃は、3月から12月ぐらいまで裸で単車乗って飛び回ってたけえ。血圧が240にもなって、そのせいか心臓が肉厚になってるらしい。まあ、ひっくり返っても40分もすれば目が覚めた」
繊細さを極める作品のイメージとは対極のような豪放さに思わず絶句。文化庁から人間国宝にとの連絡が入った時も「ちょっと考えさせてほしい」と返事を留保したという。普通は誰もが「謹んでお受けいたします」と即答するようだから、文化庁もさぞ面食らっただろう。
「どっかに挨拶に行かんならんとか、いろんなとこに出なければならんのは面倒くさいからイヤやったし、家族も性格に合わんからやめといたほうがええ言うし。でも、お客さんはせっかくだから受けろと言う。半分半分じゃ考えてもどうにもならん。これまでお客さんのために仕事してきたんやし、特別面倒なことはしなくてもいいと言われたし、変わらなくていいならと受けることにしたんや」