この熱き人々

2014年4月9日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

建具職人の修行へ

 寄り道も壮大にして真剣勝負。木工芸ひと筋にわき目もふらず一直線というわけにはいかない灰外に、二兎を追うものは一兎をも得ずと批判する人もいる。しかし、灰外は全く意に介する様子もない。

 「そりゃ一兎も満足に追えんものは二兎も追えんやろう。農家では、米作りだけじゃなく野菜も作るし、炭も焼いて、出稼ぎに行って金を送るやろうが。二兎も三兎も追っとる」

 そう言う灰外は、農家の生まれである。

 「五男坊よ。兄たちは大工になったから、自分も大工かと思ったけど、何か面白くなくて、わしは建具のほうに行くことにしたんや」

 中学校を出て建具店に住み込み、指物仕事といわれることはすべて身に付けた。

 「いまは建具は建具、家具は家具というように細分化されとるけど、あのころは組手(釘やねじを使わず材と材を接合する指物の技法)のものは全部作った。祭りに使うキリコ、学校の椅子や机、家具、仏壇、店舗のカウンターや天井、トイレまで。簡単な家でも作れるほどや」

 毎朝3時に起きてかまどに火を入れご飯炊きから始まる毎日は、親方から仕事を教えてもらうことはない。見て、覚えて、やってみる。

 「手を休めてじっと見ていると怒られるから、盗み見て一瞬で焼き付ける。何度もトイレに行ってその度にチラッと見て、ご飯は一番先に食べ終えて、実際に触ってどのあたりがどうなっているのか見たことと重ねる。それをチャチャッと帳面に書いて、夜の11時ごろみんなが寝てから押入れに電気を持ち込んで整理するから、毎日3時間くらいしか眠れない。昼も休憩なし、祭りか盆くらいしか休めない。楽でもないさかい、早いとこ覚えて早いとこ出よう思ってた」

 普通なら3年間で仕事を覚えて、2年はお礼奉公。5年辛抱すれば、親方から羽織袴をもらって一人前と相場が決まっているのを、灰外は1年で仕事を覚えきり、お礼奉公を2年して、5年を3年に短縮して完了にしようと自分で決めた。

 「一人前言うたかて、何をもって一人前というのか。お客さんに通用したら一人前で、5年いても10年いても通用せんかったら一人前と言っても通らん」

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