2024年12月4日(水)

Wedge2024年4月号特集(小さくても生きられる社会をつくる)

2024年3月22日

足元で減る、金・技術・人材
国からの策は実現可能か

 施設の老朽化、財源不足、人材不足の三重苦から持続性が危ぶまれる水道事業に対し、国は広域化と官民連携という対策を打ち出した。18年12月に改正水道法が公布され、「水道基盤強化計画」(改正法第5条)の策定による広域連携(経営統合、業務の共同化、災害時等の応援協定、資材の共同整備など)がさらに推奨された。

 だが、広域連携は進んでいない。「水道広域化推進プラン」(厚労省/2021年度)の策定の進捗状況によると、広域化推進プランを「策定済み」の自治体は5団体にとどまっている。

 さらに言えば、広域化し経営効率を上げれば、水道の持続が図れるかといえば、そうではない。昭和時代の水道を持続するだけでは意味がない。

 水道事業は昭和時代に供給量の増加への対応、水源の汚染への対応を課題とし、設備を建設することで課題解決を図ってきた。現在の課題は人口減少への対応、災害頻発への対応である。国が進める広域化のメリットとして、経営規模を拡張することで経費節減ができるといわれている。たしかに大口の発注などでコスト削減は可能だが、水道は設備産業であるため一定の材料費、施工費(労務費)、維持管理費がかかる。だから経費節減だけを強調すると誤解を招く。水道を供給する⾯積が広いほど、広⼤な面積を管理しなくてはならないし、人口減少が進む地域では⽔道の維持が難しくなる。

 そこで昭和時代に広げた傘を折りたたんだり、複数の小さな傘に差し替えたりする必要がある。広げた傘を折りたたむとは、ダウンサイジングのことだ。水使用量の減少から全国の水道事業の平均施設利用率(稼働率)は6割程度。つまり減価償却費や施設維持管理費などの費用が発生しているにもかかわらず、利益を生まない資産が4割ある。これを段階的に減らしていく。

 岩手県北上市、花巻市、紫波町は、それぞれ別に水道事業を行っていたが、14年に岩手中部水道企業団に統合した。岩手中部水道企業団の特色は人材育成にある。一般的な一部事務組合の場合、職員は自治体から出向する。約3年で人事異動があり専門性は蓄積されにくい。岩手中部水道企業団は専任職員だけで構成される。

 事業開始時に3市町の水道職員に移籍希望調査を行った。条件は、身分、待遇は変えず、水道の仕事に専念することだった。すると正職員の定員72人のうち、初年度だけで65人が役所を退職し、水道のプロとして働くために企業団に移籍した。11年の事業計画時から19年までに計25の施設を削減し、25年までにさらなる削減を計画する。施設削減の結果、約89億円の投資を削減できた。

 さらに職員の技量アップを図りながら有収率(給水する水量と料金として収入のあった水量との比率)を向上させた。有収率が低い主な原因は漏水だったが、15年から18年の3年で有収率が6.2%上がり、水が有効に使用された。

 その結果、配水量が日量7000トン減り、新浄水場の建設計画が白紙に戻った。将来投資が大幅に削減され、ダウンサイジングを図ることに成功したのだ。これにより漏水工事のための職員の残業も減り、突発的な工事に伴う心的負担の低減にもつながった。多くの公務員は数年で人事異動となるが、専門人材を育成する大切さを考えさせられる。


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