求められる「小規模分散化」
地域の将来像を描けるか
ただしダウンサイジングの結果、過疎地域の切り捨てが起きてはならない。人口が極端に少ない地域での持続策も考えるべきだ。それが小さな複数の傘への差し替えだ。
大きな施設で浄水処理し、そこから水を道に通して運ぶのが「水道」だとすれば、給水ポイントを小規模分散化して、水の道を極力短くし、数個から集落を対象とした「水点」をつくる。浄水やポンプ導水にかかるエネルギーを減らし、安価で管理しやすく、災害に強い方法を導入する。安全な水を安価に持続的に供給する目的が達成されるなら手段は柔軟でよいはずだ。
いくつかの例を紹介しよう。
1.集落への水デリバリー「運搬給水」
宮崎県宮崎市の持田地区、天神地区、静岡県浜松市の水道未普及地域などでは運搬給水を行っている。浄水場から、配水池までタンク車で水を運び、配水池から各家庭へは水道管で水が供給される。メリットは、水道管の維持管理が不要で費用が安いこと、デメリットは、気温の影響を受けやすいので水質管理に注意が必要なこと、事故や災害に備える必要があることだ。
2.井戸水と紫外線発光ダイオードによる殺菌
井戸は有効な水源で、能登半島地震の被災地でも住民が新たに手製の井戸を掘って活用するケースがある。ただ、地下水の水質は地域によって異なり、食中毒や感染症を起こす目に見えない病原菌が含まれていることもあるので、消毒が必要だ。
その点で注目されているのが、東京大学大学院工学系研究科の小熊久美子教授が研究・開発に取り組んでいる小型の紫外線発光ダイオード装置だ。紫外線が水中のウイルスや細菌などの微生物の遺伝子に損傷を与え、増殖を抑えることで感染を食い止められる。
3.地元住民が管理する緩速ろ過
日本各地には地元の住民が管理する小規模水道がある。岡山県津山市の水道未普及地域では、維持管理を地元組合が行うため、①構造が単純で管理の手間が少ない、②ポンプなどの動力を使用しない、③できる限り薬品類を必要としないことが考慮され、「上向流式粗ろ過」と「緩速ろ過」を組み合わせた装置が採用された。
設備はコンクリートの水槽と砂利があればよく、地元業者でも施工できる。メンテナンスも安価で簡単だ。住民が水道に関わり続けることで人材育成も可能になる。
4.水の循環利用
企業が小規模な技術を開発するケースもある。従来の「使った水は流す」から「再生して繰り返し使用する」という考え方にシフトして開発されたのがWOTA BOX(WOTA、東京都中央区)だ。
排水をろ過して繰り返し循環させることで、水の量を通常の50分の1以下に抑えることが可能。普通私たちは1回のシャワーに100リットルの水を使うが、WOTA BOXで循環利用すると100リットルで100人がシャワーを浴びられるため、能登半島地震の被災地でも活躍した。配管工事が不要で、電源さえあれば水が使える。
現在の上下水道システムには大量のエネルギーが使われている。水源からポンプで取水し浄水場まで導水する、浄水場で浄水処理する、ポンプで各家庭まで送水・配水する。いずれも電力が必要だ。今後は脱炭素にも留意する必要がある。浄水場まで水を運ぶにあたり、遠くのダムなどから導水するのではなく、近くの伏流水やコミュニティー内の地下水などを利用すれば、導水する際の電力の使用量を抑えることができる。
地下水が清浄であれば塩素殺菌するだけで十分であり、浄水処理での電力使用を抑えられる。さらには取水施設や浄水場に小水力発電を導入し売電することで、水道施設の費用をまかなうこともできる。「昭和型システム」の維持には限界があるが、広げた傘を折りたたんだり、複数の小さな傘に差し替える技術は揃っている。あとは自治体がどの技術を選び、どう管理するかが課題となる。