2024年11月22日(金)

Wedge OPINION

2024年4月25日

小谷 語順からも分かるとおり、日本ではなぜか「経済」に重きが置かれていて、安全保障が経済の中の一つの分野だと勘違いされていると感じる。

 アメリカでこの議論の発端となったのは、2016年に発刊された『War by Other Means:Geoeconomics and Statecraft』という書籍で、戦争や軍事力を起点にして話が広がっていく内容なのだが、日本に持ち込まれる時には「Economic Statecraft」がフォーカスされ、結局、「経済安全保障」という訳語が定着した。これは「United Nations(連合国)」を「国際連合」と訳したのと同じくらいおかしな話だ。

 アメリカをはじめとする西側諸国は、いくら経済的な損失が出ようとも根幹は国家安全保障である。中国ですら共産党支配を堅持することが根幹にあるからこそ、国家安全保障が最優先事項だ。日本は経済が最も重要な領域なので、経済を犠牲にしてでも守る「根幹」の部分がないといえる。

「防衛」の直結しない半導体の国産化

兼原 アメリカは「インフレ抑制法」や半導体の国内生産を支援する通称「CHIPS法」によって巨額の資金を民間に流し込む。そこには、必ず「国家安全保障」への貢献と明記されている。官民双方が支援する技術開発が、すべからく安全保障に結び付くのである。だから安全保障を目的とする研究開発の政府委託であれば、補助金とはいわれない。それが当たり前なのだ。

 世界を席巻した〝日の丸半導体〟が弱体化した要因の一つに「日米半導体協定」がある。この協定を締結させられた1986年当時、日本政府や産業界には、アメリカ側が半導体を国家安全保障上の最重要技術分野に位置付けていることを知る人はほとんどおらず、経済戦争だとはしゃいで対決姿勢を見せた。日本がアメリカの〝虎の尾〟を踏んだのだ。半導体と安全保障を結び付けるという発想がなかったことが一番の問題だったのである。

 日本でもようやく最先端半導体の国産化を目指す動きが出てきている。しかし、その使い道に「防衛」が直結していない。これから大量に装備されるであろう12式ミサイル(12式地対艦誘導弾)の改良版は、日本の反撃力の主力となる。その関連システムにRapidus(ラピダス)の半導体を使うという話が聞こえてこない。半導体の内製化だけが目的になっているのであれば残念だ。戦場で味方の自衛官を決して殺させてはいけないという使命感が感じられない。

 アメリカのように戦場の所要と結び付いて初めて国家安全保障と経済が結び付くのだ。逆に、そこがつながらない限り「経済効果」や「ビジネス」などといった狭い世界での議論に終始してしまう。戦後80年近く切り離されてきた「水と油」のような関係にある「経済」と「防衛」の世界をつなぎ合わせることは簡単ではない。だが、今後いっそう努力しなければならないのである。

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日本人なら知っておきたい ASEAN NOW
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今年は、日本ASEAN友好協力50周年の節目の年である。日・ASEAN関係は今、リージョナルパートナーからグローバルパートナーへと変貌しつつある。しかも、起業やデジタル化といった側面では、日本を大きくリードしているといえ、彼らの〝進取〟と〝積極性〟ある姿勢から学ぶべき点は多い。一方で、政治の安定、民主化などでは足踏みが続く。多様なASEANを理解するための「最初の扉」を開けるべく、各分野に精通した8人に論じてもらう。


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