事故ではフライトデータレコーダーが回収されており、いずれ事故の直接的な要因は解明されるだろう。だが事故の背景に、隊員の訓練環境や人員不足、潜水艦の静粛性、船体のステルス性の向上といったさまざまな要因があるとすれば、海自にとって重要かつ主要な任務であるからこそ、対潜水艦戦を抜本的に見直すことも必要だろう。
中国に対し“力の空白”を作ってはならない
事故後、海自は同型ヘリによる対潜水艦戦の訓練飛行を中止している。だがその一方で、虎視眈々と中国は、東シナ海から西太平洋に進出する潜水艦の新たなルートを探索し続けている。過去、沖縄本島と宮古島間の宮古海峡を潜水艦が通過しようとすると、海自に探知されるケースが多かったからだ。
中国は21年11月以降、海軍の測量艦を頻繁に鹿児島の屋久島や口之島周辺の日本領海内に進出させ、海盆の位置など海底地形の測量を実施している。国際法違反の行為だが、測量回数はすでに10回以上にも及んでおり、今後は屋久島南方の「トカラ海峡」を通過して潜水艦が日本周辺海域に進出してくることは確実だろう。
四方を海に囲まれた日本にとって、周辺海域の安定は何よりも重要であり、そのための警戒監視は自衛隊に与えられた最優先の任務といっていい。海洋進出を図り、現状変更を目論む中国を抑止するには、対潜水艦戦をはじめ警戒監視能力が低下する事態、換言すれば“力の空白”を作ってはならない。痛ましい事故ではあるが、事故を教訓に、新たに強化された警戒監視活動が始まることを期待したい。