常態化した日本周辺における中国潜水艦の活動
同省が『防衛白書』に記載しているだけでも、18年1月に中国海軍の商級原子力潜水艦が潜没したまま沖縄・尖閣諸島の接続水域内を航行したほか、20年6月と21年9月には奄美大島周辺の接続水域内を元級とみられる通常型潜水艦の潜没航行が確認されている。このほか白書に記載はしていないが、キーンソードが始まる前の16年2月にも、中国潜水艦は長崎・対馬の周辺海域を潜没航行し、東京・硫黄島の近海にまで進出してきていたことが確認されている。
当時、政府は領海外の接続水域であっても、潜水艦の潜没航行は「一方的に緊張を高める悪質な行為」として中国に厳しく抗議していた。しかし「中国は海自にどこでどうやって探知されたのかといった海自の探知能力を把握することが狙い」との指摘があり、それ以降、防衛省は潜水艦を探知しても一切公表していない。だが、16年から21年の状況からわかるように、日本周辺における中国潜水艦の活動は常態化していると考えなければならない。
元自衛隊幹部は「公表しないのが当たり前。しかし、尖閣など日本の領海内を潜没航行された場合には、国際法違反としてきちんと対処しなければならない。そのためにも、海自にとって中国潜水艦の探知は、極めて重要な任務となっている」と話す。
だが、年を追うごとに探知は難しくなっているという。2010年ごろまでの中国海軍の潜水艦は「スクリュー音が大きく、3000ヤード離れていても探知できた」(元海自幹部)というが、ロシアの技術に加え、自前の宋級、元級と建造が進むにつれ、「静粛性が増し、海自の潜水艦が水中で探知しようとすれば、互いに気づくのが遅れ、水中衝突という不測の事態を招きかねない」と打ち明ける。裏を返せば、だからこそ哨戒ヘリが潜水艦を探知する必要性が増しているということでもある。
訓練の抜本的な見直しも必要
こうした状況下で起きたのが、今回の哨戒ヘリの事故だ。水中にいる潜水艦の位置を探り当てるには、三角測量の技法が使われる。今回も訓練には3機の哨戒ヘリが参加し、各機は吊り下げ式のソナー(音波探知機)を海中に投入、ソナーから音波を発信し、水中の潜水艦に当たって反射してきた音を観測したり、潜水艦が発する微弱な音を収集感知したりすることを繰り返す極めて難易度の高い訓練だ。
事故後、対潜水艦戦に詳しい海自のOBらからは、慢性的な隊員不足に加え、尖閣諸島対応や北朝鮮のミサイル発射に備えるなど実任務で出動する機会が増え、「隊員は訓練が思うようにできていないのでは……」といった意見が聞こえてくる。
また、中国潜水艦の静粛性が増しているため、訓練では同様に静粛性に優れた海自の潜水艦を標的艦として訓練するが、遠方からでは探知が難しく、ヘリ同士が標的に近づき、結果として空中衝突する危険性も増しているのではないだろうか。