日米首脳会談のニュースに埋もれてしまったが、陸上自衛隊が沖縄県内に訓練場を新設する計画について、木原稔防衛相は4月11日、計画の断念を明らかにした。地元自治体や住民に対する政府の説明不足が原因だが、沖縄・尖閣諸島を含め南西地域の防衛体制の強化が喫緊の課題であるだけに、政府の失態と言っていいだろう。
さらに、日米首脳会談を踏まえて進展する自衛隊と米軍との指揮統制強化についても、政府は国民に具体的な内容を提示し、きちんと説明しなければならない。裏金問題への批判から逃げ出すように訪米した岸田文雄首相だが、晩餐会でジョークなど言っている場合ではない。
訓練場新設は防衛力強化のため
政府の説明不足を象徴しているのが、沖縄県内に陸上自衛隊の訓練場を新設する計画だ。陸自では、南西方面の防衛力強化を目的に、那覇市に司令部を置く第15旅団に所属する普通科連隊を現在の1個から2個に増やし、2000人規模の旅団を3000人規模の師団に格上げ、改編する計画を進めている。
連隊が増強され、人員が増えれば、訓練の所要が多くなるのは当然だ。ところが、那覇訓練場など同県内にある3カ所の訓練場は、いずれも規模が小さく、小隊と呼ばれる30人程度の部隊が訓練することしかできない。このため駐屯する第51普通科連隊では、毎年、大分・日出生台演習場などを使って大掛かりな転地訓練を実施しなければならない。
だが、それには武器や車両などの装備品と一緒に隊員も船舶で移動しなければならず、2023年度は県外で29日の訓練を実施したが、移動だけで往復に83日間も費やさざるを得ず、計112日間も連隊の大半が不在となってしまった。陸自では、訓練の度に災害の発生に備えて九州の部隊を留守役として沖縄県に派遣しているが、派遣された隊員たちからは「地形や地理に不案内で不安だ」といった声が上がっているという。
県民の安全損なう危機に
実際、18年7月に発生した西日本豪雨では、被災した岡山、広島両県を警備隊区とする第13旅団(広島・海田町)は北海道での訓練中で、同旅団の主力が戻って災害派遣に出動するまで13日が経過している。しかしこの時は、近隣の山口や兵庫、福岡などの部隊がすぐさま陸路で被災地に駆けつけることができた。
また20年7月の熊本豪雨では、被災地を担当する部隊は隣の大分県で訓練中だったが、直ちに訓練を中止し、そのまま被災地に直行している。このケースは訓練場が近くにあることのメリットにほかならない。
これらの事例と真逆なのは離島である沖縄県だ。九州方面から部隊と活動に必要な資機材を送り込むには相当な時間がかかってしまうことだけは確実だ。県民の命に係わる事態であり、現状を放置していることは、安全を損なう危機を招いていると言っていい。