こうした日中関係の改善の流れが現実に見られる中で、防空識別圏設定がその流れに水を差すような目的を持っているとは考えにくいのである。それが、習近平が権力の集中に成功した18期3中全会の直後というタイミングだとすれば、なおさらである。しかも、27日に米軍機が、28日に日本の偵察機がそれぞれ中国の防衛識別圏に進入したが、中国機の緊急発進(スクランブル)はなかった。
日中関係改善の流れを考慮すれば、今回の防衛識別圏の設定は、中国が日本と協議のテーブルにつくための仕掛けではないかと考える。
日本と中国の双方が最悪でも戦争状態に陥ってはならないと考えているはずである。そのために、衝突が起きないように、また突発的な衝突が起きても事態の拡大を防ぐために、軍事ホットラインの設置が喫緊の課題であることは両国とも認識している。そのための軍事交流にあたって中国としては、日本と対等な条件の下で交渉を始めることは重要で、その1つとして日本が設定済みの防空識別圏を中国も設定したとは考えられないだろうか。中国が設定すれば、慌てて日本が協議のテーブルに着くという読みなのかもしれない。いずれにしても、鐘声論説の「これは、安全の相互信頼の促進、周辺国家との良性な相互行動を促進に寄与する」という部分は意味深である。
繰り返しになるが、筆者は中国の防衛識別圏設定を善しとしているのではない。ただ、このタイミングについて、冷静に考える必要があるし、それには日中関係改善の流れを軽視してはならないと考える。
■「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。