陰謀論―バイデン陣営によるトランプ暗殺の試み
同じく共和党副大統領候補と見られているJ.D.バンス上院議員(中西部オハイオ州)は自身のXで、「バイデン陣営には権威主義的な独裁者であるトランプ前大統領をどうしても止めなければならないという前提がある」と指摘した上で、それがトランプ前大統領暗殺の試みを導いたと述べた。
バンス上院議員は、バイデン陣営がトランプ前大統領の暗殺の誘因となったと言いたそうだ。バイデン陣営は、トランプ前大統領が民主主義の脅威であると繰り返し訴えてきた。バイデン支持者の中には、集会で「ストップ・トランプ(トランプを止めろ)」という看板を掲げている者がいる。トランプという言葉には、「民主主義の破壊者」などが含まれている。
また、テレビ討論会でトランプ前大統領に敗れ、しかもバイデン大統領の認知機能低下が連日報道され、バイデン撤退論が日増しに強まる中、バイデン陣営は、唯一残された手段は、暗殺であると考えて実行に移したという陰謀論が流布することが充分あり得る。
これまで、トランプ前大統領は「バイデンは大統領選挙で勝てないので私を起訴した」と訴え、「トランプ裁判はバイデン大統領が仕組んだ」と主張してきた。となると、トランプ前大統領のストーリーを信じるトランプ支持者は、バイデン大統領が仕組んだ「起訴」が、「暗殺」に変わったと考えても不思議ではない。
上記の陰謀論を信じるトランプ支持者は、バイデン陣営が暗殺という最終手段に打って出たと信じるかもしれない。今後、ネット空間において、トランプ暗殺未遂に関する多種多様な陰謀論が展開され、選挙戦に多かれ少なかれ影響を及ぼすかもしれない。
「重罪犯」か「英雄」か
では、トランプ暗殺未遂事件は、バイデン陣営にとってどのような意味を持つのか。
バイデン大統領とトランプ前大統領のテレビ討論会後、米国民とメディアの焦点は、完全にバイデン氏の認知機能問題に移った。しかも、日を追うごとにバイデン大統領に対して、議会民主党、メディア、大口献金者から撤退要求が強まってきた。それが、今回のトランプ暗殺未遂事件によって、一時的にせよ、国民の目は、バイデン大統領の認知機能問題から同事件に向かっている。これはバイデン大統領にとって「助け船」になった。
また、バイデン大統領は今回の事件で、銃の規制強化や政治暴力反対を訴える機会を得た。これもプラス要因である。
ただ、バイデン陣営にとって、マイナス要因は大きい。バイデン陣営は、トランプ暗殺未遂事件後、すぐに「トランプ重罪犯」などの政治広告を取り下げた。つまり、バイデン大統領は大統領らしさを示した。
しかし、これはどのように作用するかを考えれば、必ずしもバイデン大統領に有利に働くとは限らない。
トランプ前大統領は銃弾を受け、血を流しながら「戦い続けよう」と訴えた。彼は、「英雄」「戦士」「強いリーダー」「不死身」として、共和党全国大会で熱狂的に受け入れられるだろう。バイデン陣営にとって、米国民の間に「トランプ=重罪犯」のイメージが薄れることが、共和党全国大会後の選挙戦に影響を与える可能性があり、最大の懸念材料になる。