2024年7月31日(水)

BBC News

2024年7月30日

アナ・フェイギー、BBCニュース(ワシントン)

カマラ・ハリス米副大統領が11月の大統領選への立候補を表明してからの数日間、全米の若者たちは、いろいろなことの説明に追われた。

なぜココナッツの木が、人気急上昇になったのか。なぜイギリスのポップスターが突然、アメリカ政治に影響力をもつようになったのか。なぜ「シャルトルーズ・グリーン」(明るい黄緑)の人気が復活したのか、などなど。

21日にジョー・バイデン大統領が再選への選挙活動を打ち切り、代わりにハリス副大統領を支持したことで、ソーシャルメディアは騒然となった。そしてハリス陣営もそれから、盛り上がりに進んで参加した。

バイデン・ハリス陣営のX(旧ツイッター)アカウントは、ユーザー名を「KamalaHQ」に変更した。イギリスのポップスター、チャーリーXCX氏がどうやらハリス氏を支持したので、彼女のイメージカラーの緑色を、KamalaHQもバナーに採用した。

アカウントのプロフィールには、2023年5月にハリス氏が使った「文脈を提供する」という表現が使われている。しきりにからかわれて嘲笑された表現だ。

バイデン大統領がいきなり撤退し、ハリス氏が台頭した。そのことで、大統領選の不透明感は一気に増したが、その一方でソーシャルメディアユーザー、特に若者たちは大喜びしている。しかしこの新たな熱意が、民主党にとって11月の本選で欠かせない若者層という支持基盤の確保につながるのかは不透明だ。選挙戦で今の勢いが続くのかも不透明だ。

これまでのところ、ネット上の慌ただしい動きは実を結んでいる。バイデン氏が撤退を決めてからおよそ2日間で、ハリス陣営は1億ドル以上を集めた。資金集めのために主催したZoom会議には4万4000人以上の黒人女性が参加し、新たに約5万8000人がボランティアとして協力することになった。

ココナッツ、ブラット、インターネットでの出来事

共和党は以前から、ハリス氏の口が滑った瞬間や、ぎこちなかったインタビューの動画を、攻撃材料として使ってきた。しかしここ数週間、ハリス氏の支持者たちは同じ動画を使い、ハリス氏を愛らしく、親しみやすく、率直な人物として描いている。

ある動画では、ホワイトハウスのイベントで、ハリス氏が母親についてこう語っている。

「母はよく、私たちにこう言いました。『あなたたち若者は、どうしちゃったの。今いきなりココナッツの木から落ちてきたつもりでいるの?』と」

同じ動画でハリス氏は笑いながら、こう補足する。「私たちは、自分の前にあったこと、そして自分が生きているあらゆる文脈の中に存在している」のだと。

この動画は、ハリス氏に批判的な人にとっては攻撃材料だ。しかし、ハリス支持者はこの動画が大好きなのだ。ハリス氏を支持する人たちはソーシャルメディアで、ココナッツの実やヤシの木の絵文字を、ハリス氏支持を表す記号として使っている。

「対立候補が何か言ってきたら、それを飲み込んで自分のものにしてしまう。そうすれば相手の力を奪うことになる」。デジタル・コミュニケーションが投票率に与える影響を研究している、米ノースイースタン大学のキャサリン・ヘンシェン教授はこう説明する。

「ネットミームは大事だ。ミームは実際、複雑な情報伝達方法だ」と教授は言う。

チャーリーXCX氏による支持も、インターネットでの熱狂に油を注いだ。バイデン氏がハリス氏を大統領候補として支持すると言明したその数時間後、チャーリーXCX氏は今年発売した最新アルバムのタイトルになぞらえて、「カマラこそbrat(ブラット)だ」とXに投稿した。

ヘンシェン氏によると、「brat」という言葉はこの文脈では、「自分の道を自分で選べたりする、自分の課題を自分で設定できたりする」、矛盾を抱えた女性を指すのだという。

この投稿は、30日までに5400万回閲覧されている。

2018年に起きたフロリダ州パークランドの高校銃乱射事件をきっかけに、「命のための行進」運動を立ち上げた民主党活動家、デイヴィッド・ホッグ氏(24)も、この投稿をシェアした。

「このたった一つのツイートが、若者票のためにどれほど貢献したか計り知れない」と、ホッグ氏は書いている

民主党の選挙活動に携わってきたデジタル政治戦略家のアニー・ウー・ヘンリー氏は、このツイートは、100万ドルのケーブル広告よりも多くの若者にリーチできると話す。

ヘンリー氏によると、バイデン・ハリス陣営がTikTokで公開している300本以上の動画のうち、バイデン氏が身を引いてから公開された3本の動画は、ページ全体の「いいね」の20%を集めているという。

草の根運動の熱意

ハリス陣営のSNS戦略は、バラク・オバマ前大統領が勝利した2008年の戦略と似ていなくもないと指摘する専門家もいる。

オバマ陣営の政治広告コンサルタントを務めたフィリップ・ド・ヴェリス氏は、「若い有権者の感覚がわかっていて、大衆文化に精通した人物が大統領候補になるのは久しぶりだ」と語る。

しかし、だからといってそれが票に結びつくとは限らないと、ド・ヴェリス氏は注意を促した。

伝統的には、ネット上の政治的な熱意はまずは候補の陣営が作り上げて、それが有権者やSNSユーザーに伝播(でんぱ)していったものなのだと、そういう意見もある。しかし、それに対してハリス氏を応援する今の盛り上がりは、陣営発ではなく、もっと草の根的なものだとヘンシェン教授は言う。

オバマ氏の成功もまた草の根的な努力の結果だが、その背景は異なる。当時はTikTokは存在せず、フェイスブックは大学キャンパスの外で普及し始めたばかりだった。

アメリカ人は、それぞれの時代の流行に参加したがる。そして、今のところオンライン展開にとても力を入れているハリス陣営は、その参加のチャンスを大勢に与えているのだと、ヘンシェン氏は指摘する。

ヘンシェン氏はその上で、ハリス陣営は一連のミームが過ぎ去るをを待つべきで、そうでなければ勢いを失うリスクがあると話した。

この流れは11月に影響を及ぼすのか

フロリダ大学でメディア活動や社会運動を研究するレイチェル・グラント教授によると、現在のハリス氏が持つ爆発的な拡散性を通じて、ハリス氏はさまざまなアイデンティティーを自分のものとして取り込めていると話す。

伝統的な黒人大学ハワード大学での経験や、人工妊娠中絶権のために闘ってきた経歴など、さまざまな経験について副大統領人が話す無数の動画クリップから、若い有権者は自分に響くものを見つけられる。

今のところ、ハリス氏が数日間で集めた数百万ドルは、約100日後に迫った接戦の選挙に向けて、有権者を元気づけている。とはいえ、民主党は有権者が実際に投票してくれるよう、ハリス氏の拡散力をいかに活用するか、そして重要な政策課題をどう取り上げるか、そのバランスを取る必要がある。

デジタル政治戦略家のヘンリー氏は、「ハリス氏の選挙活動は、ココナッツや文脈や、重荷を下ろすこと、そういったことに焦点を当てるべきではない」と述べた。

「焦点を当てるべきは、ハリス氏がアメリカ国民のために何ができるかだ」

(英語記事 The internet is enthralled with Harris. Will that get her more votes?

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c19kxpx7nk2o


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