2024年8月23日(金)

BBC News

2024年8月23日

11月のアメリカ大統領選に向けた民主党の党大会が22日、最終日を迎え、カマラ・ハリス副大統領が大統領候補としての指名を正式に受諾した。ハリス氏は、未来のために勤労世帯を支援しアメリカの夢を実現するというテーマを中心に、中産階級のための大規模減税、国境管理の強化、女性の生殖権選択の自由確保などを公約した。

自分は検察官だった時から常に国民全員のために闘ってきたのに対して、共和党のドナルド・トランプ候補は自分自身の利益しか考えず、独裁者にあこがれているため、もし再び権力を握ったら恐ろしいことになると警告した。

ウクライナ支援継続を約束したほか、どう言及するか注目されていたガザ戦争については、イスラエルの自衛権を支持し続ける一方で、「ガザの苦しみが終わり、パレスチナの人たちが尊厳と安全と自由と自決権を実現できるよう」に、人質解放と停戦合意のためバイデン氏と取り組んでいるのだと述べた。

「国民のために」

ハリス氏は家族やジョー・バイデン大統領に感謝することで演説を開始し、移民の両親のもと、公民権を重視する勤労世帯に囲まれて育ったと切り出した。母親に「不正に文句を言うのではなく、それを何とかするように」、「しかも、何事も絶対に適当にやるな」と教わったことも披露した。

友人が家族から性的虐待を受けていると知り、その友人を守った経験から、大勢の「安全や尊厳や正義」を守るため検察官を目指したことも語った。

そのうえで、「誰か一人が傷つけば全員が傷つく」「誰も孤独に闘うべきではない」という信念から、法廷では常に「国民のために、カマラ・ハリス(Kamala Harris, for the people)」と公訴を提起したのだと話した。

「私が代理するのは常に国民、それだけだった」とハリス氏は強調。「党派や人種やジェンダーや、おばあさんの話す言語を問わず、すべてのアメリカ人に成り代わり」、「各自のあり得ない旅路に出発したことのあるすべてのアメリカ人に成り代わり、私が一緒に育ったアメリカ人に成り代わり。一生懸命働く人たち。夢を追いかけて、お互いを大事にする人たちに成り代わり。地球上でもっとも偉大なこの国でしか書かれることのない物語を持つ、すべての人に成り代わり、アメリカ合衆国大統領への皆さんの指名をお受けします」と宣言した。

ハリス氏は続けて、「すべてのアメリカ人のための大統領になる」と約束し、「裁判所(courthouse)からホワイトハウスまで」自分は常に、政党や自分自身よりも国を最優先し、法の支配や自由で公平な選挙、平和的な権力移譲といったアメリカの基本理念を神聖なものとしてきたと説明した。

そのうえで自分はこれまで、女性や子供を獲物にする加害者と闘い、中産家庭を獲物にする巨大企業や詐欺と闘い、銃犯罪や薬物・人身売買カルテルと闘い、国境の安全確保のために闘ってきたのだと、副大統領は経歴をあらためて語った。

トランプ候補の危険警告

ハリス候補は、「今回の選挙は自分たちの生きている間で最も重要だというだけでなく、この国の命にとって最も重要なひとつ」だと前置きし、「いろいろな意味でドナルド・トランプは軽薄な男だが、ドナルド・トランプをホワイトハウスに戻せば、非常に深刻な結果が待っている」と警告した。

ハリス氏は、2001年1月6月の連邦議会襲撃事件はトランプ前大統領が扇動したものだとしたほか、複数の罪で有罪になり、さらに性的暴行事件をめぐる損害賠償を命じられていると指摘。

「彼に再び権力を与えたら、本人がどうするつもりか考えてみてください」、「しかも連邦最高裁は彼は刑事訴追から免責されると判断したばかりです」として、「彼は今までと同じように自分自身だけのために」、側近と一緒に作った「プロジェクト2025」を実行すると、ハリス氏は警告した。

「プロジェクト2025」に沿ってトランプ候補は教育省を廃止し、児童福祉を削減しようとしているとハリス氏は述べ、「アメリカ、私たちは後戻りしない」と強調。社会保障や低額医療保険を廃止しようとしたトランプ政権には後戻りしないし、国民の投票権を州レベルの介入から守る法案を成立させると約束した。

今回の選挙の大きな争点となっている、女性の人工中絶権や不妊治療を受ける権利については、中絶権の法的保障を覆した最高裁判決はトランプ候補が「自分のおかげだと誇っている」とハリス氏は非難。

トランプ候補が再び大統領になれば仲間たちと共に、避妊を制限し、全国的に中絶を禁止し、全国的な中絶禁止調整官の役職を設けて女性の流産や中絶について州政府に報告させるつもりだとハリス氏が言い、「端的に言って、あの連中は、頭がおかしい」と断定すると、会場の人たちは大声で同意した。

続けて、「どうしても聞きたくなります。一体全体どうして、向こうは女性を信用しないのでしょう。私たちは、女性を、信用します」というハリス氏の言葉にも、会場は大声で応じた。

「機会の経済」

ハリス氏は中産階級を支援すると繰り返し、「誰もが競争し成功する機会を持てる、機会の経済と呼ぶものを私たちは作り出す」と表明。雇用創出と経済成長を実現し、医療や住宅費や食品代などの生活費を引き下げると約束した。

小規模事業主や起業家に資金を提供し、住宅不足を解消し、社会保障と公的医療保険を守るとも約束した。

ハリス氏は、トランプ候補は自分と大富豪の仲間たちのために戦っているのだとして、トランプ候補が予定する高額所得者向け減税策で、国の公的債務は5兆ドルも増えることになると批判。さらに、同候補が提案する小売税は中流家庭の年間負担を4000ドル近く増やすことになるとも述べた。

それに対して自分たちが実施する中産階級を対象にした減税は、1億人以上の国民の利益になると強調した。

「国の安全を政争の具にしない」

トランプ候補をはじめ共和党支持者が攻撃材料にしている国境の安全と不法移民対策については、「法の執行に何十年もかかわったので、安全と治安の重要性を承知しています。特にこの国の国境において」と、ハリス氏は切り出し、自分とバイデン大統領は昨年、共和党の支持も得た超党派の抜本的な国境対策法案を取りまとめたのだと説明。

「この最強の法案を、国境取締局も支持していた。けれどもドナルド・トランプは、国境対策の合意は自分の選挙戦に不利だと考え、議会の仲間たちに、法案を否決するよう命令した」のだとハリス氏は批判し、「私はこの国の安全を政争の具になど絶対にしない」と強調。

「ここで皆さんに誓います。大統領として私は、彼がだめにした超党派の国境安全法案を復活させ、署名して法律として成立させます」とハリス氏が宣言すると、聴衆は大歓声を上げた。

「移民の国という誇らしい伝統を尊重しながら、壊れた移民制度を改革し、市民権を正当に得る道筋を作り、そして国境を安全にすることができる」とハリス氏は述べた。

さらに、国の防衛の重要性を強調したうえで、「最高司令官として私は、アメリカが常に世界最強で最も殺傷力の高い軍隊を確実に持てるようにし、この国の兵士とその家族たちの面倒を見るという神聖な責務を果たします」と述べた。

これには会場から、「USA! USA!」の連呼が続いた。

さらにハリス氏は、トランプ候補が長年アメリカの軍経験者を中傷してきたと非難されていることを念頭に、「そして私は、兵と家族の奉仕と犠牲を常にたたえ、決して侮辱などしません」と強調した。

ウクライナとNATO支援

ハリス氏は、宇宙や人工知能(AI)についても世界を未来へ導くリーダーシップを約束し、アメリカの「世界的なリーダーシップを決して放棄せず、強化する」と述べた。

それに対してトランプ候補は北大西洋条約機構(NATO)を「離脱すると脅し」、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が思うままにアメリカの同盟国を侵略しても構わないと許可したのだとハリス氏は非難した。

対照的に自分は「ロシアがウクライナを攻撃する5日前、(ウクライナのウォロデミル・)ゼレンスキー大統領と(ミュンヘン安全保障会議で)会談し、ロシアの侵略計画について警告し」、「プーチンの侵略に対する50カ国以上の世界的な防衛体制を動員する手助けをした」のだと説明。

「大統領として私は、ウクライナと、NATOの同盟諸国を強力に支える」とハリス氏は表明した。

ハリス氏はトランプ候補がプーチン氏だけでなく、北朝鮮の金正恩総書記などの独裁者と「仲良く」していると批判し、そういう独裁者たちは「トランプを応援している。ほめそやしていい思いをさせれば、簡単に操れると知っているから」と皮肉った。「(独裁者たちは)トランプが独裁者を罰しないとわかっている。本人も独裁者になりたがっているので」とも、ハリス氏は批判した。

ガザ和平実現へ

発言が注目されていたガザ戦争については、ハリス氏は、人質解放と停戦合意のためにバイデン大統領とともに尽力しているのだと述べた。

「私は常に、イスラエルの自衛権を支持し、常にイスラエルが確実に自衛能力を持つようにする。というのも、イスラエルの人たちはテロ組織ハマスが昨年10月7日に引き起こしたような恐怖に、二度と直面してはならないので」とハリス氏は言明した。

それに続けてハリス氏は、「この10カ月間、ガザで起きてきたことは悲惨だ」「苦しみの規模は悲痛だ」として、「イスラエルの安全が実現し、人質が解放され、ガザの苦しみが終わり、パレスチナの人たちが尊厳と安全と自由と自決権を実現できるよう」にバイデン氏と取り組んでいるのだと述べた。

ハリス氏はさらに、「イランやイランが支援するテロリストに対して、アメリカ軍と国益を守るために必要なあらゆる行動も、絶対にためらったりしない」と強調した。

「素晴らしい物語の次の章を」

内政や外交の課題に触れながら、自分とトランプ候補の違いを示し続けたハリス候補は、「対立候補たちは毎日のようにアメリカを中傷している。何もかもがいかにひどいか。でもうちの母親の教えはもうひとつあります。自分が何者か、決して他人に言わせるな。自分が何者かは、自分が他人に示すのだと」と前置きした。

続けてハリス氏は、「アメリカ、お互いと世界に、私たちが何者か示しましょう。そして私たちが何を掲げているのか。自由。機会。思いやり。尊厳。公平。そして無縁の機会です」と呼びかけた。

「自分たちは世界の歴史上、最も偉大な民主主義を受け継いだ者たちです」としてハリス氏は、先人たちの貢献に見合うよう、「前向きに、信念に導かれながら、愛する国のために戦い、貴重な理想のために戦いましょう」と訴えた。

さらに、「地球上で最大の特権に伴う、とてつもない責任を堅持しましょう。アメリカ人であるという、特権と誇りを」と述べ、ハリス候補は「出かけて行って戦って、投票して、そしてみんなで一緒に、ほかにないほど素晴らしい物語の次の章を書きましょう」と国民を鼓舞した。

(英語記事 Kamala Harris vows 'new way forward' as she accepts Democratic nomination

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c984ee85392o


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