2024年8月22日(木)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2024年8月22日

 この夏、米国東部のある大学を訪問したが、そこの図書館の男性用トイレには生理用品のタンポンが置かれている。今回の大統領選挙で民主党副大統領候補に指名されたミネソタ州のティム・ウォルズ知事が、トランプ陣営から最近「タンポン・ティム」と呼ばれていることが想起された。

 2023年にウォルズ知事は、ミネソタ州内の公立学校のトイレに無料で生理用品を設置することを義務付ける法案に署名した。その法案が求めたのは、「生理中のすべての生徒」のための生理用品の設置であった。女性用トイレだけではなく男性用トイレにも設置を義務付けたのである。

 すなわち、さまざまな性的少数者を助けるために、男性用トイレにも設置することを求めるものであった。これに対しミネソタ州の共和党議員の一部は、この「すべての生理中の生徒」という文言に噛みつき、生理用品は女性用トイレのみに設置されるべきと主張した。性的少数者へのいきすぎた配慮だというのである。

男性優位主義的な考えを持つトランプ陣営でも、ビヨンセの力を借りたいようだ(AP/アフロ)

 保守派の司会者は、この件を取りあげ、ウォルズ氏の顔を合成したタンポンのパッケージの写真を創り、「タンポン・ティム」と呼んで彼を馬鹿にした。トランプ陣営もこれに乗っかり、民主党は副大統領候補に「タンポン・ティム」を選んだと揶揄した。この呼び方はトランプ支持者に広がった。

 一方、民主党支持者の間では、このウォルズ氏の姿勢を支持する動きが広がっている。男性用トイレにも生理用品を設置することが、様々な少数者への行き届いた配慮を表していると受け止められたのである。

 ヒラリー・クリントン元国務長官をはじめ民主党有力者も、ウォルズ知事の姿勢を高く評価する見解を表明している。知事本人も「タンポン・ティム」と呼ばれることをむしろ「光栄」だと発言している。

 つまり同じキャッチフレーズが、共和党支持者の間では、ネガティブなものとして、民主党支持者の間にはポジティブなものとして流通しているのである。これは米国の分断を象徴した現象と言えよう。


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