2024年9月6日(金)

BBC News

2024年9月6日

ロシア政府が11月の米大統領選にメディアなどを使って介入しようとしているとして、アメリカがロシア国営メディア幹部などを起訴したことをめぐり、アメリカの保守派インフルエンサーらは、もしこの疑惑が証明されれば、自分たちはロシアのメディア幹部らにだまされたことになると主張している。

米司法省は4日、テネシー州の企業に1000万ドル(約14億3400万円)を支払い、アメリカの視聴者に「ロシア政府のメッセージが隠されたコンテンツを制作・流通」させたとして、モスクワを拠点とする国営メディア「RT」の管理者2人を起訴した。

米メディアは、起訴されたこの企業を「テネット・メディア」と特定。同社は「西側の政治的・文化的問題に焦点を当てた、異端なコメンテーターのネットワーク」と自称している。

起訴状には直接、同社の名前は挙がっていない。

テネット・メディアは2022年、保守派のカナダ人ユーチューバー、ローレン・チェン氏と、夫のリアム・ドノヴァン氏によって設立された。同社はこの疑惑について公にはコメントしておらず、BBCの取材にも応じなかった。

テネット・メディアでは、ティム・プール氏、デイヴィッド・ルービン氏、ベニー・ジョンソン氏といった、アメリカの著名な右派インフルエンサーを雇っている。インフルエンサーらは、もしこの陰謀が立証されれば、自分たちは疑惑の「被害者」だと述べている。

米当局は、テネット・メディアで働いていたアメリカとカナダを拠点とするインフルエンサーらを、「事情を知らないまま」ロシアの計画に利用された人物だと位置づけている。

起訴状によると、テネット・メディアには移民やジェンダー、経済などの問題で右派の主張を推進する動画が多かったが、これらはRTの従業員2人によって密かに「編集され、投稿され、演出されていた」という。

また、「動画内の見解は一様ではないが、その主題や内容は、アメリカ国内の世論分裂拡大につながるもので、ロシアの国益に一致していた。たとえばウクライナで続く戦争など、ロシア政府にとってきわめて重要な国益にアメリカが反対の立場をとるテーマについて、アメリカ国内で分裂を拡大させることは、ロシアの国益に一致する。動画はそういう内容のものが多かった」と説明した。

起訴状は、RTの管理者としてコスティアンティン・カラシニコフ被告(31)とエレーナ・アファナシエワ被告(27)を名指ししている。司法省はこの2人を、マネーロンダリング(資金洗浄)と、外国代理人登録法違反の共謀罪で起訴した。

RTはBBCのコメント要請に対し、「(アメリカは)2016年の使い古された決まり文句を焼き直ししたいようだ」と回答した。2016年の米大統領選をめぐっては、米司法省が、選挙選に介入した罪でロシア人13人とロシア企業3社を正式起訴するなど、ロシア介入疑惑の捜査が進められた。

起訴状によると、カラシニコフ氏はテネット・メディアにおけるインフルエンサーの「資金や雇用、契約交渉」などを「監督」していたという。アファナシエワ氏は編集に関わっていたとされる。

テネット・メディアの創業者たちは、あまりに簡単に資金が手に入ることを不審に思っていたと言われている。

起訴状によると、同メディアの創業者2人は、「自分たちの『投資家』が実際、事実として『ロシア』だったことを、私的な会話で互いに認めていた」という。

自分たちは「被害者」だとインフルエンサーら

何人かのインフルエンサーはソーシャルメディアで、もし疑惑が事実ならば、自分たちは陰謀の「被害者」とみなされるべきだと述べた。その一方で、自分たちはコンテンツ編集権を完全に掌握していたとも主張した。

テネット・メディアが委託している「The Culture War Podcast(文化戦争ポッドキャスト)」を運営するプール氏は、X(旧ツイッター)のフォロワー210万人に対し、「もし疑惑が立証されれば、私や他のパーソナリティーやコメンテーターは、だまされたのであって、被害者ということになる。社内のほかの人間が何をして、何を指示されているのか、私は代弁する立場にない」と語った。

270万人のフォロワーがいるジョンソン氏は5日、「起訴状にある疑惑に心を痛めている。私や他のインフルエンサーが、この疑惑の被害者なのは明らかだ」と述べた。

また、自分の会社の弁護士は、テネット・メディアから打診された後、「標準的な企業間取引を交渉した」という。その契約は後に解除されたと、ジョンソン氏は述べた。

Xで150万人のフォロワーをもつルービン氏は、テネットでの自分の番組は数カ月前に終了しており、司法省から連絡は受けていないと述べた。

ルービン氏も疑惑について、「私や他のコメンテーターはこのスキームの被害者だった。私はこの詐欺行為について何も知らなかった」と語った。

起訴状によると、テネット・メディアでは計画が進行して以来、約2000本の動画をユーチューブに投稿し、合計1600万回以上の再生回数を記録したという。

メリック・ガーランド米司法長官は5日、「この企業は、RTやロシア政府との関係をインフルエンサーやその数百万人のフォロワーに明かすことはなかった」と述べた。

テネット・メディアに寄稿していた別の2人はライブ配信で、自分たちのコンテンツで何を言うべきか指示されたことはないと語った。

そのうちの一人、マット・クリスチャンセン氏は、「どれも自分で書いたものなのに、どうして知らないうちに他人の言葉を言わされていたのだろう?」と話した。

ロシアの手口とは

起訴状によると、コメンテーターたちは巨額報酬を交渉で要求し、特に著名な3人は870万ドルを受け取ったと主張している。

また起訴状によると、ロシアのスキームはテネット・メディアの創業者に指示し、保守派のインフルエンサー2人に年間200万ドルを提示してスカウトさせたという。

そのうちの1人は「この話に乗るには、年間500万ドル近くが必要だ」と答え、もう1人は「毎週のエピソードにつき10万ドルあれば、自分がやる意味がある」と回答したと、起訴状は説明している。

最終的には、最初の人物は月4本の動画を40万ドルで制作することに合意したとされる。もう1人は、動画1本につき10万ドルを受け取ることに合意したとされている。

ロシア側はこれらの交渉をまとめるため、「エドゥアルド・グリゴリアン」というハンガリー人実業家を、主要投資家としてでっち上げたとされる。裁判書類によると、ロシア側は「グリゴリアン氏」の偽の身分証明書のために偽の履歴書を作成し、彼を装ったエージェントと電話をかけたという。

起訴状には、テネット・メディアの従業員らが、自分たちが置かれている状況に疑念を抱いていた複数の事例が挙げられている。

アファナシエワ氏は、著名な政治コメンテーターがロシアの食料品店を訪れた動画を共有したと言われている。メディア各社はこのコメンテーターが、米FOXニュースの元スター司会者、タッカー・カールソン氏だと特定している。カールソン氏は今年2月、プーチン大統領を取材するためにロシアを訪れた。

カールソン氏はその際、ロシアの店頭価格を引き合いに、アメリカのインフレや生活費問題について持論を展開した。同氏がこの陰謀について気付いていたと示すものは明らかになっていない。

起訴状によると、あるプロデューサーはテネット・メディア創設者の一人に個人的にメッセージを送り、「あまりにあからさまなたいこ持ち」に思える「動画を掲載しろと言われている」のだと、不満を漏らしていたという。

このプロデューサーは最終的に、創設者の指示でこの動画を掲載したという。

アファナシエワ氏はまた、2024年3月にモスクワのコンサートで起きたテロ攻撃について、アメリカとウクライナの関与を示すために「何か録画する」よう「我々のクリエイターの一人」に依頼しろと、創設者の一人に指示したとされる。この攻撃については、イスラム国(IS)が犯行声明を出している。

起訴状によれば、コメンテーターたちは最終的にこの要求に応えたが、アファナシエワ氏は、コメンテーターらがテネット・メディアの動画を十分に宣伝しているとは思えないとして、何度も不快感をあらわにしたのだという。

(英語記事 Right-wing US influencers say they were victims of alleged Russian plot

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c5y53v3ylp5o


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