「照明が当たる野菜の向きを変えるだけで、売れ行きが違います」とJAさがみ組織経済部 指導販売課の菊地達也さんは説明する。
神奈川県藤沢市にJAさがみが直営する「わいわい市藤沢店」という直売所がある。この直売所を設計し、運営・指導するのが、JAさがみの菊地さん。寒川町の「わいわい市寒川店」の初代店長でもある。2005年に開設された「わいわい市」(現・わいわい市寒川店)が10年、JA直売所の単位面積当たりの売り上げ日本一となり、全国的に有名になった。
生産者を販売から支える黒子
わいわい市藤沢店は、地域の生産者の重要な出荷先になっており、年間数千万円売り上げる生産者もいる。
菊地さんは、元民間企業の自動車組み立て工場で生産管理に従事していた「カイゼン」のプロ。「わいわい市」のような直売所では、生産者自身が商品への値札貼り付けから陳列までを行うのだが、菊地さんは生産者一人ひとりに商品の並べ方から出荷数量を含めた販売戦略までアドバイスを送る。生産者は確実に収入を増やし、直売所を通じたまちの賑わい創出にも寄与している。
販売システムも変革した。20年近く前から、各生産者へ出荷した農産物が売り切れたことをメールで知らせるICTシステムを導入した。
生産者はすぐに新たな農産物を出荷したり、翌日以降の商品ラインナップを検討したりと、情報に基づいた販売ができる。窓を大きくして明るい店内にし、客の動線に応じた品揃えをするなど先駆的な発想も取り入れた。
農業協同組合(JA、農協)は、政治団体に近い動きがフォーカスされたり、金融や共済といった農業とは異なる事業に収益を依存していたりと、マスコミではその存在意義を疑われることが多い。スーパーなどの小売店で農産物の販売価格が30年間ほとんど変わっていない中、肥料をはじめとする資材価格が高騰し、生産者から「JAに頼っていては食べていけない」との声が聞こえる。
だが、生産者にとって一番身近な組織であり、食の安全などを含めた高品質な農産物を維持しながら生産者を支えてきたのは間違いない。筆者がこれまで関わってきた国際協力機構(JICA)研修でも、訪日した海外研修員から、生産者支援組織として、最も評価の高い機関の一つがJAである。
また、JAを通した市場出荷は販売を保証されているのに対し、JAを通さず直売した場合の売れ残ったリスクは生産者自身が負わなければいけない事実は農業外部には意外に知られていない。JA出荷は生産者にとって、低リスクなのだ。