2024年12月16日(月)

孤独・孤立社会の果て 誰もが当事者になる時代

2024年9月17日

 国立社会保障・人口問題研究所の『生活と支え合いに関する調査』(2022年)によると、一人暮らしの65歳以上男性のうち、会話頻度が電話も含め、「2週間に1回以下」の人は15.0%にものぼる。6、7人に一人の単身高齢男性は、ほぼ2週間誰とも挨拶すら交わさない生活をしているというのだから、驚きだ。単身高齢女性では、会話頻度が「2週間に1回以下」は5.1%なので、社会から孤立している単身高齢男性がいかに多いかが分かる。

 誰とも会話しないと、だんだん無気力無関心になり、家事をするのもおっくうになり、セルフネグレクト(自己放任)になりかねない。そのうえ、認知症リスクも高まるという。「妻だけが頼り」という生活は、ひとり暮らしになった後が危険だ。元気なうちから、趣味や地域活動など、仕事以外の人間関係を作っておくことが大切だ。

パートナーの分も
人生を2倍楽しむ

 私は、死生学の講座を持つ立教セカンドステージ大学の受講生のうち、配偶者と死別した人たちで「没イチの会」を結成し、「パートナーの分も人生を2倍楽しむ」ことをモットーにしている。40代、50代で死別したメンバーも少なくない。

 我々の掲げるモットーを「不謹慎だ」とする意見があることも承知している。配偶者がいる同級生や近所の人たちに「かわいそうね」「さびしいでしょ」という言葉を何年たってもかけられ、傷ついた人もいる。人生を共にした人との死別は誰だって悲しい。

 だが、残された人はパートナーのいない環境に順応し、その後の人生を生きていかねばならない。同じ体験を持つ人たちだからこそわかり合え、話題にできることもある。仲間とのたわいもない会話やメンバーで企画したイベントに参加することを通じて、生きる喜びを見出した人を筆者はこれまでに何人も見てきた。

 16年に第一生命経済研究所で、配偶者と死別経験のある高齢者を対象に筆者が実施した調査では、「特定のパートナーや異性の友人を欲しいと思わない」と回答した人は、女性で55・0%もいたが、男性では 28.2%にとどまり、異性との交流を望む人は圧倒的に男性に多い。昨今、シニアの婚活市場は活況だが、お見合いパーティーの場に、年金手帳や通帳で経済力をアピールし、「相手は家庭的で健康的な方がいい」と、女性に家政婦像を求める男性の姿が目立つ。

 以前に外国人記者たちを前に、シニア婚活について講演したことがあるが、「そもそも、好きな人、一緒にいたい人がいるから結婚するのではないか?」と質問されたことがある。「結婚するために相手を探す」というのは、欧米の人からすれば奇妙に感じるのかもしれないが、自分の世話をしてくれる女性を欲しているという時点で、自立できていないことの表れなのかもしれない。

 近所付き合い、地域活動、公民館の講座などに参加する勇気を持てば、そこには、新たな出会いも待っているはずだ。

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Wedge 2024年10月号より
孤独・孤立社会の果て 誰もが当事者になる時代
孤独・孤立社会の果て 誰もが当事者になる時代

孤独・孤立は誰が対処すべき問題なのか。 内閣府の定義によれば、「孤独」とはひとりぼっちと感じる精神的な状態や寂しい感情を指す主観的な概念であり、「孤立」とは社会とのつながりや助けが少ない状態を指す客観的な概念である。孤独と孤立は密接に関連しており、どちらも心身の健康に悪影響を及ぼす可能性がある。 政府は2021年、「孤独・孤立対策担当大臣」を新設し、この問題に対する社会全体での支援の必要性を説いている。ただ、当事者やその家族などが置かれた状況は多岐にわたる。感じ方や捉え方も人によって異なり、孤独・孤立の問題に対して、国として対処するには限界がある。 戦後日本は、高度経済成長期から現在に至るまで、「個人の自由」が大きく尊重され、人々は自由を享受する一方、社会的なつながりを捨てることを選択してきた。その副作用として発露した孤独・孤立の問題は、自ら選んだ行為の結果であり、当事者の責任で解決すべき問題であると考える人もいるかもしれない。 だが、取材を通じて小誌取材班が感じたことは、当事者だけの責任と決めつけてはならないということだ――

 


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